東南アジアのベンチャーキャピタリストが語る、起業家大国シンガポールの“多様性”

vol.08Golden Gate Ventures、マネージングパートナー

ジェフリー・ペインさん

2018.07.20

いま、東南アジアがアツい。TECH IN ASIA によると、東南アジアにおけるスタートアップへの投資額は2013年から増加し続けている。16年は25.2億USドルから17年は78.6億USドルと約3倍以上に増え、計測以来で最も大きな伸びを記録した。

その投資額の半分以上を占めるのがシンガポールだ。政府による積極的なスタートアップ支援も手伝い、アジアを代表するスタートアップ大国に成長を遂げている。

「Golden Gate Ventures(http://goldengate.vc/ja/)」は、シンガポールを拠点に東南アジアの数々のスタートアップを支援するVCだ。2011年の設立以降、アジアで7ヶ国、30社以上に投資を行なってきた。

アジア有数のスタートアップエコシステムを持つシンガポールの今とこれからについて、「Golden Gate Ventures」のJeffrey Paine(ジェフリー・ペイン)氏に伺った。


シンガポールは東南アジアのスタートアップの成長を率いる国です。どのような点が強みだと思いますか?
まずは法人税の低さや起業家向けのVISAなど法制定が整っている点、そして日本や韓国のように、経済や都市インフラが成熟している点が挙げられるでしょう。政府は90年代後半から積極的にビジネスセクターの意見を取り入れながら、スタートアップへの支援を行なってきました。

民族や世代の多様性が高い点も特徴でしょう。人口の4分の1が外国人で、ほとんどの人が何の抵抗もなく英語でコミュニケーションがとれます。また、治安も他国に比べて良好なため、多くの海外企業がシンガポールに地域拠点を置いています。
若者のなかにも起業家に憧れる人は多いのでしょうか?
最近では若者のおよそ3割がスタートアップを希望しているようです。とはいえ未だに大きな会社に就職して、安定した生活を送りたいと考える若者も少なくありません。その点は日本と似ているかもしれませんね。
近年シンガポールでは生活費が高騰していると聞きます。若い経営者のなかにはシンガポール以外の都市を選ぶ人もいるのでしょうか?
シンガポールの住宅費は確かに高いですが、食費や交通費は比較的安く済みます。住宅や車を購入しなければ、生活にかかるお金はそこまで問題ないと感じます。
とはいえ若い起業家のなかには、生活費を抑えるために、バンコクなどの都市に移住する人もいると聞きます。

日本を含めアジア7ヶ国に投資を行なっている「Golden Gate Venture」は、どのような点が他のベンチャーキャピタルと異なると思いますか?
1つはBtoCにフォーカスしている点です。投資している業界はBtoCのサービスやFinTechのサービスが中心で、BtoBのソフトウェアなどは他のVCに比べて少ないと思います。

次に所属しているメンバーでしょうか。うちには、銀行員やMBA取得者、マッキンゼー出身のメンバーはいません。起業家や投資家、PRやマーケティングの専門家が所属し、多方面からスタートアップをサポートできるチームを構築しています。

東南アジアのスタートアップのなかにはビジネス経験が浅く、若い人材も多いため、デジタルマーケティングやHR、財務、法務など、組織の拡大に必要なプロフェッショナルが必要なんです。
数多あるスタートアップのなかから、投資を行う時の判断基準を教えてください。
最も重要なのは、彼らがしっかりとアドバイスを聞き、実行する力があるかどうか、です。その点が満たせていれば、市場規模や成長のタイミング、競合他社の状況ですね。ビジネスやアイディアが、人々を熱狂させる要素を持っているかといった点もみています。

最初は、既存のビジネスモデルやアイディアのコピーでもいいと思います。オペレーションやターゲット、世界観にオリジナリティがあれば、市場にイノベーションを起こす可能性は十分にありますから。
今後「Golden Gate Venture」は東南アジアのスタートアップエコシステムのなかでどのような役割を果たしていきたいと考えていますか?
私たちが目指すのは「成長過程の国におけるNo. 1のベンチャーキャピタル」です。決して東南アジアにとどまるつもりはなく、アフリカや南アメリカなど、成長している市場には積極的に活動を広げていきたいですね。

個人的にはヘルスケアや教育といった分野にも関心があります。東南アジアはいまスタートアップハブとして注目されていますが、それに該当するのはほんの一部の人々だけ。スタートアップとは関係のない、多くの東南アジアの人々にとって、ロボットやFinTechといった分野は生活と無縁です。彼らをただ置き去りにするのではなく、スタートアップは積極的に“教育”に取り組む必要があるでしょう。そうすれば、今の子どもたちが成長した際に、より大きなインパクトを起こす人材が登場し、変化の波がより広がっていくはずですから。
2015年、東南アジアにおけるVCの投資額は日本を超えました。これから日本がスタートアップエコシステムを構築していくために、企業はどのような課題を見据えておく必要があるでしょうか?
日本は十分大きな市場を抱えていますが、あらゆる業界において人口の変化は無視でいなくなっていくでしょう。高齢化や人口減は進み、若い人の趣味嗜好も多様化している。例えば、伝統的な日本のテレビ局は広告モデルを脱しなければいけない。

また、起業に対して積極的な人が少ない印象もあります。仮にいたとしても比較的若い人が多く、30歳以上で起業をする人は少ない。シンガポールではビジネスパーソンがスキルや知識を蓄えてから、30〜45歳で余裕を持って起業する例も多くあります。
年齢に対する考え方は大きく違うかもしれませんね。
日本では大きなIT企業が人を雇い、社内でスタートアップも創業させる例も多いと聞きます。ただ個人的に、それはスタートアップとは少し違うものになってしまうと思います。社内起業だと会社から給与が支払われるので、金銭的に困窮することはない。住宅や車を売る必要はないですし、数年間に渡りカップラーメンを食べ続ける必要もありませんから(笑)
X-HUB TOKYOのように、日本のスタートアップを支援していくプログラムについてはどのように考えますか?
大変意義ある取り組みだと思います。政府はスタートアップが海外に挑戦していけるよう促していくべきです。

日本人のビジネスパーソンはみんな礼儀正しいので、厳しいフィードバックをしない人が多い。一度日本の外に出て海外の人に真っ向からビジネスを評価してもらうことで、きっと日頃は意識していなかった課題と出会える。そうした機会を持つことは、日本のスタートアップがより成長していく上で、大変重要なのではないかと思います。