日本企業が知るべきシリコンバレーの“ルール”とは ーー米VCらが語るエコシステムの現状

vol.09

2018.08.30

GoogleやApple、Facebookといった巨大IT企業が本社を構えるシリコンバレー。“イノベーションの聖地”として世界中から起業家や投資家を惹きつけ、世界有数のスタートアップエコシステムを有している。

国内スタートアップの海外進出を支援するX-HUB TOKYOは、米国西海岸から4名のVC・アクセラレーターを迎え、『世界のエコシステムの現状と展望~シリコンバレー編~』を開催。シリコンバレーにおいて日本のスタートアップが成功を掴むには何が必要なのか、どのように現地のエコシステムを活用すべきなのか、議論を交わした。

本記事ではAlchemistのMichia Rohrssen氏、GenentechのErica Chain氏、CatapultのJonathan Tower氏、VenrockのSteve Goldberg氏、4名のアクセラレーター・ベンチャーキャピタリストによるQ&Aセッションの様子を取り上げる。


日本企業の成功に“ネットワーキング”は不可欠

『Alchemist』Michia Rohrssen氏

Q1:日本企業がシリコンバレーで成長するために、何をすべきでしょうか?
私たちが支援するスタートアップには、初期の段階からプロダクトのアイディアについてフィードバックしてくれる顧客を集め、「カスタマー・アドバイザリー・ボード」を設けるようすすめています。

電話やメールで見込みのある顧客に声をかけ、プロダクトについて意見を募る。この時点で誰からもフィードバックが得られない場合は、そもそものアイディアが適切ではないと判断し、再度アイディアを練り直します。
Q2:シリコンバレーの資金調達に関する状況は変わってきているのでしょうか?
以前に比べ、アーリーステージのスタートアップに投資するVCが増え、大規模なVCによる巨額投資の頻度も上がっています。ただし、資金を得るためのハードルも年々高くなっており、スタートアップにとっては厳しい状況が続いています。
Q3:そうした状況のなかで日本企業が資金調達をするために計画すべきこととは?
VCや投資家とのネットワーキングです。大抵の投資家は、知り合いの起業家に紹介された場合のみアポイントメントを了承しています。日本のスタートアップがネットワーキングを怠った場合、勝負の土俵にすら立てません。

私自身、サウスカロライナ州からシリコンバレーに移って起業した当初は、同じ大学出身の投資家に会うために、現地のアクセラレータープログラムに参加し、コネクションを広げていきましたね。

立ち戻るミッションのある起業家が強い

『Catapult』Jonathan Tower氏

Q1:シリコンバレーで成功する起業家にはどのような共通点がありますか?
投資家を動かす熱量がある点、でしょうか。投資家は、ミッションドリブンでビジネス的な利益は二の次になっているような起業家に惹かれます。ミッションを共有しているチームは、たとえ困難が起きたとしても、ミッションを頼りに、ビジネスモデルや事業を柔軟に変えていけます。その方が最終的に勝てる確率が高いと思います。
Q2:これからもシリコンバレーは、イノベーションを牽引する都市として地位を保ち続けるでしょうか?
はい、そう思います。今後もシリコンバレーはロボティクスやAI、自動運転車など、あらゆる先端領域でイノベーションを生み出していくでしょう。

しかし、一つの領域において発展を遂げている都市もあります。例えばピッツバーグはAI領域のエンジニアにとって最もホットな都市の一つ。最先端のAI研究が行われているカーネギーメロン大学があり、地元スタートアップが同大学出身の研究者を雇い、先進的なプロダクトを生み出しています。

『Venrock』 Steve Goldberg氏

Q1:スタートアップがよく陥りがちな失敗とは何でしょうか。
よくある失敗は、市場選択です。ユニコーン企業を生み出したいと願うVCは、小規模な市場を狙う起業家への支援は避けようとします。なぜなら、一定規模が見込める市場を選ばなければ、ユニコーンにはなれないからです。市場選択を誤ると資金が集まりにくくなってしまいます。

もうひとつは、カスタマーに向き合うための時間を確保せず、プロダクト開発にすべての時間を投入してしまうこと。これは私と同様に、エンジニア出身の起業家にありがちな失敗かもしれません。
Q2:シリコンバレーで資金調達をするために大切なこととは?
多くのVCは、米国に本社を持つスタートアップに投資する傾向があります。その理由は単純で、彼らの近くにいる方が現状の様子を把握しやすいためです。だから、日本のスタートアップは、意思決定権を持つ人間を米国内に置いておくことが重要。仮にCEO以外の社員が外国にいても構いません。

あとは、シリコンバレーの作法を理解し、投資家に判断材料を渡すこと。いかに市場におけるプロダクトの成長が見込め、他社と差別化できているのか、十分な人的リソースが確保されているかなどを証明できなければいけません。プロダクトの中身だけでなく、財務状況や事業計画を明確に示せなければ、「シリコンバレーのルールを知らないのだな」と瞬時に投資先候補から外れてしまいます。

ヘルスケア領域ではデータが勝敗を握る

『Genentech』Erica Chain氏

Q1:Genentechはヘルスケア領域に特化したVCです。シリコンバレーにおけるヘルスケアスタートアップの近況はいかがでしょうか?
2つの大きな流れがあると理解しています。1つ目は“患者”が主役になっていること。今や患者は、ウェアラブルを用いてデータをリアルタイムで記録し、いつでもそれらにアクセスできます。2つ目はデータ。ビジネスだけでなくアカデミックの分野でも、あらゆるプレイヤーがデータを用いて新たな価値を生み出そうと試行錯誤しています。
Q2:シリコンバレーに進出して、成功している外国のヘルスケアスタートアップはあるのでしょうか?
外国企業が成功するのは難しい状況が続いています。例えばNOKIAはフランスのヘルスケアスタートアップ「Withing」を買収したものの、シリコンバレーで事業をうまく成長させられず、結局売却しました。海外企業は、法律・規制のハードルで市場に参入しづらいため、米国企業が多い状況となっています。
Q3:海外からシリコンバレーに進出するヘルスケアスタートアップにとって、どのような課題があるでしょうか?
法律や規制への理解ですね。例えば米国では患者の手に渡るプロダクトだけでなく、医療についてアドバイスする場合も政府機関から認可を得なければいけません。ヘルスケア領域に進出する場合は、規制に対する意識がより一層求められます。

実際に現地で活動をする4名のVC・アクセラレーターから共有されたシリコンバレーの状況からは、現地で繰り広げられている競争の厳しさが伝わってくる。「郷に入れば郷に従え」というが、世界でも有数のイノベーションハブだからこそ、シリコンバレーならではの”ルール”が存在するのだろう。そのシビアな環境へ進出するスタートアップには、立ちはだかる壁を乗り越えてでも成し遂げたい“ミッション”の有無が問われるのかもしれない。

今後もX-HUB TOKYOでは、達成したいミッションを掲げ、日本から海外へ果敢に挑戦するスタートアップを支援していく。