「英語はできるフリでいい」現地の日本人起業家が見る、シリコンバレーの現実

vol.11

2018.10.25

米サンフランシスコで活動している、ADHD(注意欠陥・多動性障害)のためのAIセラピーの開発、その生きづらさを解決するビジネスを展開する、HoloAsh(ホロアッシュ)。代表・岸慶紀は、2018年6月〜9月の間、X-HUBが主催する「米西海岸進出コース」に参加した。このプログラムは、米国西海岸からアクセラレーター、ベンチャーキャピタルを東京へ招き、現地進出に当たってのフィードバックを得るとともに、現地事業会社とのビジネスマッチングを行うことで、スタートアップが海外展開を開始するための足掛かりを作るもの。

既に米国で活動実績があるにも関わらず、なぜ「米国西海岸進出コース」へ参加したのか。その理由を聞くと、日本のスタートアップが海外進出をする上で必ず知っておくべきルールや、シリコンバレーで事業を行う上で気をつけるべきことなどが見えてきた。現地の起業家は、シリコンバレーでどのように事業展開をすべきなのか。


HoloAshは既にシリコンバレー周辺で活動をしていますが、なぜいま、このプログラムに参加したのでしょうか?
シリコンバレーで事業展開をするときに、とにかく大事なことは「人的ネットワーク」です。投資家と会うのにも、「誰からの紹介なのか」ということが非常に重要視されるのです。もちろんメールやLinkedInなどで直接連絡をとることも多いですし、実際に会えて話をすることもできます。ただ「◯◯さんという有名な人の紹介」という看板は非常に強力で、現地で実績を上げている人といかにしてつながるかということが大切です。

そのため、参加した第一の目的は「現地のネットワークづくり」でした。実際に参加してみると、錚々(そうそう)たる方々がメンターやアドバイザーとしてX-HUBプログラムに協力していて、つながりができた。他にもいくつかのアクセラレーションプログラムに参加していますが、率直に「X-HUBすごいな」って思いました(笑)。

人的ネットワークがとにかく大切だと。シリコンバレーでそれを築いていくためには、どのようなことが必要なのでしょうか?
どこでも当たり前のことですが、自分の事業に対して「仮説」を持つことです。例えば「◯◯さんを紹介してほしい」と誰かに頼むと、多くの場合「なんで?」と聞かれます。その時、きちんとした仮説をもとに理由を話さないと断られてしまう。

ただし、日本と異なるのは「それならこっちの人のほうがいいよ」と別の人を紹介してくれる場合が多いこと。自分が持つネットワークを出し惜しみせず別の人へつなげようとしてくれる点は、シリコンバレーならではの寛大さなのかもしれません。

また、投資を受けるときはさらにハードルが上がります。自己紹介をする際、「◯◯というアクセラレーターを通っていて、◯◯さんと知り合いの、僕です」というように、既に実績を上げている有名な人や団体と接点がないと投資が受けづらいというのは、現地で実感しました。

シリコンバレーでは、投資を受けやすい人がもついくつかの特徴があります。それは、「28歳以下」「白人」「エンジニア」「スタンフォード(≒有名大学)の出身」など。この項目から1つずつ外れていくごとに、指数関数的に投資を受けづらいと言われています。だから私のような日本人は、積極的に現地のネットワーク作りをしなければいけないのです。

投資家の方とお話をする際、話し方などで工夫したことはありますか?
まず、正しく簡潔に伝えること。あとは自分の事業をストーリーで伝えること、「ストーリー・テリング」が大事です。

話し出しは、まずWhyから始めます。もし打ち合わせをしている相手から「僕がある日、本を読んでいるときに…」と話し出したら、ぐっと引き込まれませんか?投資家と話すときも同じ、まず自分の話に興味を持ってもらうために、話し出しで相手の心をつかみます。

特に、僕らのビジネス領域(ADHD)の場合は特殊に見られることが多いのですが、「実は小さい市場ではなく、皆が持っている、注意散漫だったり落ち着きがなかったりなど、ちょっとした特徴が強く出ているのがADHDである」ということを伝えるために「あるある」ストーリーとそれが大きな問題である、ということを語ることが多いです。

「皆さんはスマホを1日に何度見ますか?多分、100回以上は見ていますよね。色々なアプリからの通知で、集中力が削がれた経験はないでしょうか。本を読もうとしていたのに気づいたらLINEをしていたり、Slackで返信をしていたりということもあると思います。さて、僕はADHDです。実はこの状況はADHDに近いのですよ。ADHDは注意散漫で、すぐに気を逸らされます。今のTech Giantたちが作り出した、皆さんが陥っているこの状況と極めて似ているのです。」

こんなふうに、話を展開します。

自分たちのビジネスに協力してほしい研究者の方と話すこともあるのですが、研究者の場合は投資家と違って、「僕の調査だと、こういう課題とこういう課題が強く出ている」というデータや「今までの調査の中で、ここがうまくいっていないからこういうアプローチをしたい」というような具体的な話をする。相手に応じて意識的に話し方を変えています。

せっかく紹介してもらった人なのに、興味をもってもらえないとゼロになってしまう。目の前のチャンスを確実に掴むために、その点は気をつけていました。

人的ネットワークの重要性や現地で気をつけるべきことは、ある程度事前に調べていたかと思います。実際に現地のビジネスを行う上で意外だったことや、事前に聞いていた話とは違うと感じた点はありますか?
思ったより夢がない、ということでしょうか(笑)。投資家はビジョナリーな方よりも現実的なリターンの方を気にする人がすごく多くて、かなりシビアです。Product Market Fitができているか、ポテンシャルマーケットが大きいかといった点を、日本の投資家以上にとても厳しく見ています。

また、「Spray and Pray(スプレーアンドプレイ)」という言葉があります。シリコンバレーは投資のバブル期に、「スプレーのようにとにかくたくさんお金をばらまいて、あとは祈って待つ」ということをよくやっていたようです。数打てば当たる理論で、ばらまいた中で1社ドカンと行けばいい、という考えですね。しかし今はリーンスタートアップやデザインシンキング的な思想が広がっているので、そこから外れているとあまり良く思われない印象があります。

他に、シリコンバレーで働く上で大事なことはありますか?
兎にも角にも、考えすぎないことでしょうか。日本ではプロダクトをしっかり作り込んでからローンチしなければいけないという考えがありますが、アメリカ人のエンジニアたちは「バグだらけでもとにかく出してみよう」という思想です。

日本人は、その文化の中で勝負できているのでしょうか?
文化的な違いに適応できないケースが多いと思います。周りにいる日本人のエンジニアたちはとても優秀で、本来なら世界に出られるクオリティのものを作っているのに、現地の文化に馴染めずにくすぶってしまうことが多いのではないでしょうか。

また、日本のサービスは日本特有の問題に特化しているケースが多いです。日本に特化したものを先に作り上げてしまうと、海外展開をするときに海外用に組み替えてつくらなければいけない。つまり「現地のpain(課題)が何なのか」を再設計しなければいけないので、そこで時間がかかったり、課題設定にズレが起きたりしてしまうのだと思います。

言語の面で困ったことはありますか?
あまりないですね。僕はほとんど英語を話せないのですが、できなくても大丈夫。こちらではインド人が、アメリカ人でさえも何を言っているかわからないような英語を堂々と話しているわけです。その態度が大事であって、極論すると、話している言葉や内容はどうでもいいくらい。

もちろん伝えるべき場面ではしっかり伝えないといけないですが、そういう様子を見ていると、日本人はあまりにも自信がなさすぎると感じます。まずはできるフリでもいいので、実際に飛び込んでみてから語学力をつけていくのでも遅くないと思います。