ボストンのスタートアップエコシステムを育てた男が語る「東京の可能性」

vol.03CIC Venture Cafe Global Institute(VCGI)プレジデント

トラヴィス・シェリダンさん

2018.01.31

PROFILEトラヴィス・シェリダン|Travis Sheridan
CIC Venture Cafe Global Institute(VCGI)プレジデント
カリフォルニア州出身。大学では組織心理学を専攻。スタートアップ支援を15年以上にわたって行ったのち、2014年にエグゼクティブディレクターとしてVCGIに参画する。2017年1月より現職。@TravisSheridan

ボストンのスタートアップエコシステムを
育てた男が語る「東京の可能性」

スタートアップランキング第5位の街・ボストンが誇る、世界最大級のインキュベーション施設「Cambridge Innovation Center」(CIC)。500以上のスタートアップ、大企業のR&D部隊、ベンチャーキャピタリストらが入居する巨大エコシステムを支えるのは、「Venture Cafe Global Institute」(VCGI)と呼ばれるインキュベーションコミュニティだ。

なぜボストンではスタートアップエコシステムが栄えたのか。ボストンから見る東京の可能性とは何か。そして、これからの時代に求められる起業家とスタートアップの在り方とは。VCGIを率いるトラヴィス・シェリダンに訊く。


まずは、あらためて「CIC Venture Cafe Global Institute」(VCGI:以下 ベンチャーカフェ)について教えてください。
ベンチャーカフェはいくつかのプログラムによって「Cambridge Innovation Center」(CIC)のエコシステムを育んでいる。メインとなるのは毎週木曜に行われる「Thursday Gathering」。スタートアップや大企業の人々から投資家、研究者まで、毎回約500人が集まりネットワーキングを行うことができる。それと同時に毎回8〜10のセッションが組まれ、スタートアップを運営していくための知識を得ることもできる。

ベンチャーカフェのプレジデントとしての私の役目は、現在世界中に存在する5つのベンチャーカフェをサポートし、起業家同士をつなげるためのコミュニティをつくること。2018年3月には、6つ目となるベンチャーカフェが東京に生まれる予定だ。
Global Ecosystem Rankingによれば、ボストンは世界第5位のスタートアップエコシステムをもっています。なぜボストンではスタートアップが育つ生態系が生まれているのでしょうか?
ボストンの最大の強みは優れた大学が多いことだ。ハーバード、MIT、ボストン大学…これらのハイレベルな大学はただ単に優れた研究を行っているだけでなく、「ビジネス化」という視点をもって研究を行っている。世界の大学のなかでも、リサーチをビジネスに変換できるところは多くない。だがボストンでは研究者や大学教授が起業家に転身することも多く、そうした人々のおかげで学生にも起業家精神が根付くことになる。

街の特徴としては、その密度の高さが挙げられる。ボストンやケンブリッジは非常に小さなエリアであり、研究者や起業家の距離の近さがここのイノベーションや起業家精神を育んでいる。カリフォルニアにおいてカルテックやスタンフォード大学が果たした役割を、ここではMITやハーバード大学が果たしていると言えるだろう。学生たちによって起業家精神が育まれ、スタートアップが生まれていくこと──カリフォルニアやボストンの生態系のつくり方は米国のほかの地域や世界にもアプライできるものだと考えている。

ボストンではどんな領域のスタートアップが多いのでしょうか?
AI/ロボティクス、ヘルスケア、金融の3つがとくに強い。これもアカデミクスとの距離の近さが背景にある。大学はただ優れた研究を行っているだけでなく、優れた才能をも生み出しているからだ。ロボティクス、バイオ、フィンテックの分野で優れた才能がここで生まれることで、それらの領域を手がける企業にとってもボストンは魅力的なエリアとなっている。
ボストンに限らず、米国のスタートアップシーンはここ数年でどのように変化してきたと見ていますか?
Airbnb、Uber、WeWorkといったシェアリングエコノミーのユニコーンは出揃ったように思える。次の5年で現れるゲームチェンジャーは、AI、VR/AR、ブロックチェーンの領域から生まれるだろう。またここ3年ほどで企業が自社のオフィスから飛び出して、スタートアップがいるような場所にかつてないほど近づこうとしている。それによって、スタートアップにとっては必ずしも巨額の投資を得ることが成長条件ではなくなった。企業とのパートナーシップを通して成長することが可能になったといえる。
X-HUB TOKYOでは、プログラムの第1弾としてボストンを含む東海岸へ進出する日本のスタートアップを支援していきます。東京のスタートアップシーンを、トラヴィスさんはどのように捉えていますか?
2017年に来日をして東京のスタートアップシーンを見て思ったのは、東京とボストンの環境が似ているということだ。多くの優れた大学が、優れた実践者を生み出している。そして先ほども話したように、大企業がますますスタートアップコミュニティに近づこうとしているのは東京でも感じることができた。

AI/ロボティクスやフィンテックに強いこともボストンとの類似点だろう。たとえば、ホテルや空港で機能するAIチャットボットを手がける東京発のスタートアップ・Bespokeには大きな可能性を感じた。私自身がホテルや空港で多くの時間を過ごすタイプの人間であり、これらの場所におけるカスタマーサービスにはディスラプションの余地があると考えている。

東京とボストンをつなぐ今回のプログラムに、何が期待できるでしょうか。
東京のスタートアップは米国のより成熟したスタートアップコミュニティに入ることで、メンターを探したり投資家とつながったりするスキルを身につけることができるだろう。米国の企業とつながることで、さらなる成長の機会を得られるはずだ。

また米国のスタートアップコミュニティや東京への進出を狙っている企業にとっても、「東京のクオリティ」を学ぶ機会になると考えている。X-HUBのようなプログラムに関して私が最も期待をしているのは、そうした質の高いスタートアップや世に知られていない逸材に光を当てることなんだ。異なる地域のコミュニティへ行ったり来たりできるような関係性をつくることで、両方のエコシステムがより強くなるだろう。
東京とボストンの環境が似ているというお話がありましたが、先のGlobal Ecosystem Rankingでは東京はランク外。経済やイノベーションといった文脈においては、中国やインド、アフリカといった地域がもつほどのポテンシャルは東京にはないのではないかとも思います。そうしたなかで、VCGIが東京に新たな拠点をつくること、また東京のスタートアップをボストンに迎えることについてどのような可能性を感じていますか?
たしかに長時間労働やリスクを嫌う傾向がまだまだ残っていることは、日本の課題だろう。だが私が日本の企業について尊敬することは、「次の世代」を考えて会社がつくられていること、世代を越えた構想がなされていることだ。時間に耐えうる価値をつくることの重要性、プロダクトを超えて意義のある何かを生み出すことの重要性は、世界が日本に学びうるレッスンだと考えている。

経済格差、民族間の対立、地球温暖化や気候変動…。こうした世界が抱える大きな社会課題のためにイノベーションをアプライすることはできるし、社会課題の解決をコアミッションとするスタートアップも増えてきた。いいプロダクトをつくることを通して、世界をよりよくするスタートアップだ。資本主義が完全に終わることはないだろうが、我々は経済的なプロフィットだけではなく「地球と人々にとってのプロフィット」を考えていかなければいけないだろう。

もはや人々に正しく利用されることを期待してプラットフォームをつくるだけの時代は終わった。ドローンがいいサービスのためにも戦争の道具としても使えるように、これからの起業家たちは、テクノロジーは悪用されうるということを考えなければいけないんだ。そういう意味でも、西洋の人々が東洋の哲学に学ぶことがあると私は考えている。たとえばA地点からB地点に行くときに、西洋の考え方では「Bにたどり着くこと」が成功とされる。だが東洋ではしばしば、「AからBへたどり着くまでの旅路」にこそ価値が置かれるのだから。