世界で第4位約2.7億人の人口を有するインドネシアは、赤道にまたがる約14,000の大小さまざまな島々から構成されています。インフラ整備も進み、投資環境も整いつつあります。インドネシア経済が安定して発展を継続することができた理由、そして今後さらなる発展のための課題について調べました。

インドネシアの堅調な成長を支えてきた「内需」

インドネシアは世界的に見ても堅調な成長を維持し続けている国です。世界の主要な新興国は2000年に入ってから経済成長率に陰りが見えはじめました。その中で2000年以降経済成長率がマイナスになっていないのは、インドネシアだけです。

2008年のリーマンショックで世界各国が大きな打撃を受けるなかでも、インドネシア経済は4%台の成長を保ちました。タイを中心に始まった「アジア通貨危機」によりアジア各国がマイナス成長に陥った1998年を除けば、長期にわたり安定して成長を遂げてきた国といえるでしょう。

2019年までの経済成長率は5%程度の成長率を保っており、とくに2010年前後には6%台の成長を維持していました。これは主要な産業である一次産品の価格が高水準だったことも理由でしょう。しかし最近は、コモディティ価格*も下落していて、経済成長率は鈍化しています。

インドネシアが世界不況の渦中でも高い成長率を維持できたのは、内需主導経済であることが理由です。インドネシアは輸出依存度が低く、旺盛な個人消費が経済成長をけん引しています。

*コモディティ価格とは、商品先物市場で取引される「原油や天然ガス・ガソリンなどのエネルギー」「金・銀・プラチナなどの貴金属」「小麦・大豆・とうもろこしなどの穀物」これらの価格のことを指します。この市場の動向は先進国の景気や為替市場にも影響を及ぼすため、注目度の高い項目となっています。

消費市場が拡大した理由と交通渋滞問題

雇用の拡大

インドネシアで消費市場が拡大したのには理由があります。まず、製造業やサービス業の発展に伴って雇用が拡大していることが拡大の理由といえるでしょう。またインドネシアの対内直接投資受入額はこの10年間で急増しています。それが自動車や日用品などの内需の投資拡大につながり、製造業が活況となったと考えられます。

もともと2008年~2009年は世界金融危機で多くの国が不況に陥りました。その一方で内需主導の成長が堅調で、政治的にも安定していたインドネシアは有望な投資国として世界で注目を集めたのです。

産業の高度化

またインドネシアが発展することで産業構造にも変化があらわれました。農林水産業の比率が低下して、逆に製造業・サービス業の比率が増加しています。いわゆる産業の高度化が進み所得水準が上昇したことで、貧困層が減少しインドネシアの消費市場拡大につながっています。

このように産業構造が変わっていくと、農村から都市とその近郊へと人口も移動していきます。インドネシアはスマトラ島やジャワ島、ニューギニア島などからなる列島国家です。この中で経済的な中心地とされているのがジャワ島西部のジャカルタ首都圏。ジャカルタは、オランダによる東インド支配の時代から政治の中心地として機能してきました。

都市へ集中する人口

ジャカルタの人口は約1,000万人、首都圏も含めれば約3,400万人が暮らしています。そんな首都ジャカルタでは、世界最悪とも言われる交通渋滞が深刻化しています。交通渋滞による経済損失は百兆ルピア(約7775億円)、国家予算の5%にも及ぶと言われていました。

これは道路自体が少ないことに加え、自動車やバイクの保有台数の増加や市内を移動が出来る公共交通機関がなかったことが原因です。日本政府と日本企業が全面支援した大量高速鉄道(MRT)が2019年に開業しましたが、まだ一部の区間に限られ渋滞を緩和するまでにはいたっていないのが現状です。

インドネシアの個人消費は世界から注目の「巨大市場」

インドネシアの個人消費が世界のマーケットに

新型コロナウイルス流行前のインドネシアのGDP、その約6割を占めたのは民間消費です。インドネシアをけん引してきた個人消費は安定した推移を見せていました。インドネシアは世界で第4位の人口を抱え、人口増加や最低賃金の上昇を追い風にして拡大を進めてきたのです。

感染拡大により一時は二輪車販売なども落ち込みが見られましたが、2022年の二輪車販売台数は前年比3.2%増の約522万台、輸出台数は数前年から7.5%減の約74万台となっています。インドネシア二輪車製造業者協会では、半導体不足など部品の供給に心配は残るものの、2023年もこのまま増加すると予測しています。通年では540万~560万の販売台数を見込んでおり、市民の必需品である二輪車市場は大きなマーケットになっています。

また、国民の生活水準の向上とともに消費も多様化し、日用品や通信関連の消費が増加していることも個人消費拡大に寄与しています。

所得水準の目安として2021年の1人当たりGDP(名目)を見てみるとインドネシアは4,361USドル。これは世界117位で、同じくASEANのフィリピンは3,576USドルで128位でした。残念ながら、1万ドルを超えて11,407USドルの世界67位のマレーシアとはまだまだ乖離しています。

しかし、今後中長期的に安定した成長を続けて1人当たりGDPが5,000ドル台、10,000ドル台まで上昇すればさらに耐久消費財の普及など個人消費も押し上げられることになるでしょう。インドネシアは人口の厚みがあるだけでなく、今度も成長が期待できる開拓余地が大きい市場と考えられます。

安定した消費は平均年齢の低さから

インドネシアの市場の特徴として、年齢構成が若く労働人口が多いことが挙げられます。2021年の最新の労働人口は総人口の約半分、49.09%をも占めています。

インドネシアでは生産年齢人口にボリュームがあり、2055年まで生産年齢人口が増え続けることが予想されています。これは安定した消費が続く理由にもつながります。そのため金融サービスの発達もスピーディーで、ファイナンス業界も発展が期待されています。この巨大な消費市場に対し、日本企業が参入する動きも加速しているようです。これから海外進出を考えている企業にとっても大きく期待出来る市場であるといえるでしょう。

参考:国際通貨基金(IMF)『WORLD ECONOMIC OUTLOOK DATABASES』

外資誘致に向けた第2期ジョコ政権の課題

2019年4月の大統領選挙でジョコ・ウィドド大統領が再選しました。これにより2024年までの5年間、引き続き大統領を担うこととなります。

外資誘致政策

経済成長の底上げを狙うジョコ政権は、今後日本企業を含む外資の融資を推進するためにも、このような項目を主要政策に盛り込みました。

  • インフラ開発
  • 投資促進(規制緩和の推進や法整備)
  • 人材開発(品質管理や労働生産性の向上)

2020年11月にはオムニバス法(雇用創出法)が制定・施行され、日本企業が参入しにくい要因となっていた最低賃金や解雇規定・退職金規定の改善が見込まれています。ASEA諸国の中でも際立って低いインドネシアの労働生産性はどうしても人件費が割高に感じてしまい、人件費に見合った生産性の向上や現場力強化がインドネシアの課題であるともいえるのです。

首都機能移転にも注目

現在ジャカルタ首都圏の人口は急激に増加し、ジャカルタも所得水準も地方の数倍あります。政治と経済の中心地であるジャカルタが消費の中核を担っているのが現状です。そこで2019年の8月インドネシア政府は首都をジャカルタからカリマンタン島・東カリマンタン州の東部に移転する方針を決定しました。

首都機能を移転することでジャカルタへの一極集中を無くし、首都圏と地方の格差を是正する目的です。コロナ対応を最優先とし一時はストップしていたこの「首都移転計画」ですが、2045年までの完了に向け進められています。

ただし、有力な出資元からの投資見送りなど資金調達に難航しており、さらに新型コロナウイルスの影響によって計画が遅れているのが現状です。新しい首都はジャングルを切り開いて建設されることから、ジャカルタからの首都移転に向けてどのように進むのか今後の動向が注目されています。

インドネシア経済の今後

新型コロナウイルスの影響

インドネシア経済も各国同様に新型コロナウイルスの感染拡大が大いに影響しました。とくに2021年6月以降は、感染力の強いデルタ株の流行により新規感染者数が急増しました。2022年12月時点でのインドネシアの感染者数は約670万・死者は16万人を超え、東南アジアの中でも群を抜いた数字です。

感染が拡大した2020年第2四半期から、インドネシアの経済成長率は大きく落ち込み、マイナス成長となっていました。しかし2021年は、新型コロナウイルスとの共存(ウィズコロナ)を前提とした対策を講じたことで3.7%のプラス成長に転じ、2022年には+5.31%と、2014年以降最高の伸び率となりました。

インドネシアでは、2022年の12月30日に新型コロナウイルス対策の活動制限を撤廃しています。公共の場所等でのマスクへの着用義務や、PCR検査結果やワクチン接種証明書などを表示するアプリでのスクリーニング義務がなくなりました。これにより、バリ島を中心とした観光業も順調に回復し、観光客誘致への動きが加速しています。

インドネシア経済の強みと課題

インドネシア経済の強みは、何といってもその「人口」です。1980年に約1億4,700万人であった人口が、2023年3月現在では2億7,000万人を超えています。これは中国、インド、アメリカに次ぐ数字です。経済成長の続くインドネシアでは、減少傾向にあるとは言っても依然出生率が高く、2030年代には3億人を突破し、2065年頃まで増加が続くと予想されています。2048年に1億人を割ると言われている日本とは、真逆の状況とも言えるでしょう。

さらに日本の高度経済成長期のように、生産年齢人口の割合がそれ以外の人口の2倍以上である「人口ボーナス」と呼ばれる状態が経済成長を後押ししています。子どもと高齢者の割合が少ないことによって教育費や医療費が抑えられることで、個人消費が活発になり、経済規模が拡大しやすい状況にあるのです。

ただし、今後を担う子どもたちの教育面には心配もあります。インドネシアでは日本と同じ合計9年間の義務教育期間を定めていますが、施設や設備・教師の質など地域の格差がまだまだ大きいのです。とくに農村部では学校までの距離が遠く、通学自体が困難である場合も多く、経済的な負担の問題もあります。教育面からもわかるように、インドネシアでは貧富の格差をなくすことが大きな課題です。

2020年9月の貧困率は10.19%と、新型コロナウイルスの影響もあり10%を超えました。農村部の貧困率が高く、都市部や観光地では低い傾向にあり、農村部と都市部には大きな差があると言えるでしょう。教育水準の低さは雇用機会を制限することにつながるため、農村部はどんどん取り残されることになってしまいます。反対に、都市部の生活水準は高く、物やサービスの価格も年々上昇し、富裕層も増加しています。相続税のないインドネシアでは、さらに貧富の差が広がる可能性もあります。

ジョコ大統領は、国民的なバイク・タクシー配車アプリ「Gojek(ゴジェック)」の共同創業者ナディム・マカリム氏を教育文化大臣に迎え、技術革新や教育水準の向上を進めています。さらにインドネシア政府は、貧困世帯を対象とした食料支援や現金給付など貧困削減に取り組んでいますが、急激な経済成長によって広がる格差をどう埋めていくかが今後の課題です。

まとめ

インドネシアは通信や流通など急速に近代化が進んでいます。コンビニエンスストアの売上が伸びて、商品やサービスもより利便性の高い方へシフトが進んでいます。これらの新しいビジネスは外資企業が持ち込んだものばかりではありません。

政府は外資規制を大幅に緩和する大統領規定が制定・施行されましたが、インドネシア地場企業は存在感が強いためインドネシアに海外進出する場合は地場企業や財閥グループとの提携、フランチャイズなどの戦略も検討することをオススメします。

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