少子化など市場の縮小が予想される日本にあって、海外進出を検討する企業は数多くあります。海外進出する際にとくに気になるのが投資コストでしょう。今回は日本とも関係が深いタイの法人税や会社設立といったコストをまとめました。

東南アジア中心に位置するタイはアジア進出の要所として世界の企業から注目を集める国です。また日本の文化も普及し始めて日本企業にとってもビジネスチャンスが多いでしょう。タイの法人税や会社設立についてまとめました。

タイの法人税

タイで事業を行うにあたって、租税コストは必ず調査が必要です。

法人所得税を納める法人

タイでは事業活動を行う法人は法人税の納付が義務付けられています。この法人には外国企業の支店やパートナーシップ、ジョイントベンチャー、社団、財団も対象となります。また駐在員事務所はタイで事業活動を行うものとみなされて納税義務者となりますが、営業活動自体が許されていないため、源泉徴収と申告義務のみがあるので注意しましょう。

法人税率

タイの法人税率はもともと30%でした。しかし、2012年1月1日以降に開始する会計年度については23%、2013年1月1日以降、2015年12月31日までは同20%とする軽減税率が適用されました。その後2016年3月に法人税率が引き下げられ、2016年1月1日以降に開始する会計年度は、法人税率が原則恒久的に20%になりました。

中小企業の累進課税

中小企業(SME)については、資本金が5,000,000バーツ以下、かつ収益が30,000,000バーツ以下の場合、別途規定された累進課税が適用となります。

  • 純利益が0~300,0000バーツ…非課税
  • 300,001バーツ~3,000,000バーツ…15%
  • 3,000,001バーツ以上…20%

中小企業が軽減税率を受けるには(1)会計年度末において払込資本金が 500 万バーツ以下であること(2)「商品の販売およびサービスの提供」による収入が 3,000 万バーツ以下であることを満たさなければいけません。また支店の場合はタイ国内で得た利益についてのみ、通常の法人税率で法人税を支払います。支店の利益を本店に送金する場合は10%の税率で追加課税されます。

納税の流れ

タイでの法人税の申告納税は年に2回です。中間報告として事業年度を6カ月経過してから60日以内に年間推定課税所得を見積り、その半分相当か中間推定課税所得に基づく税額を半期納税申告書で申告、納税します。

ただし、中間推定課税所得が決算後の確定申告の際に、実際の課税所得より25%以上下回っていると、不足税額の20%を追加徴収されます。後半からいきなり利益が急増しなければ起きない事態ですが、念のため注意が必要です。

確定申告は、事業年度末日から150日以内に確定申告書を提出し、算出した税額を税務署へ納税しなければいけません。さらにタイでは、すべての法人に対し監査法人による監査が義務づけられていることから、監査済財務諸表の添付が必要です。

二国間租税条約による二重課税の回避

タイは、日本と二重課税の回避・脱税の防止のために、日本・タイ国間で「日本・タイ租税条約」を締結しています。タイ国内法よりも優先され、その対象は法人所得税と個人所得税です。

事業所得

日系企業がタイで行なった事業所得に関しては、日系企業がタイに恒久的施設(PE)を保有していなければ、タイの所得税は課税されません。PEを通じて事業を行なった場合のみ、タイで課税されます。

配当所得

日本・タイ租税条約において、タイの法人が日本の居住者へ支払う配当の源泉税率は、支払先によって15%もしくは20%を上限に定められています。ただし実際は、タイの所得税法(国内法)により、外国企業がタイから配当の支払いを受ける際の源泉税率は10%となっているので、実効税率は低い方の10%が適用されます。

利息

同租税条約上の利息にかかる上限税率は、金融機関が受け取る場合には10%、その他一般の場合には25%とされています。一方、タイ国内で生じた利息は、国内税法で定める源泉税が15%のため、低い方が適用されます。

個人所得税

タイの個人所得税は、対象となる人が「居住者」であるか、「非居住者」であるかで分けられ、居住者に該当すれば所得税の支払いが必要になります。居住者の定義は、タイ国籍または永住権をもち、タイ国内に居住する個人です。

さらにタイにおいては、1暦(1/1~12/31)を課税対象年度としているため、この期間内にタイ国内の累計滞在日数が180日以上となる場合には「居住者」として扱われ、その他の者は「非居住者」とされます。

タイの投資委員会による優遇制度

タイの投資委員会による優遇制度

投資委員会(BOI)

タイでは投資を促進するために投資委員会(Board Of Investment:BOI)を設置して、条件を満たした投資事業に対し、優遇措置や恩典を付与しています。外国資本の規制をしているタイであっても、国の技術力強化や産業にとって有益と考えられる分野や事業については、積極的に取り入れようとしているのです。タイの持続的な成長や雇用促進が目的であるため、国や産業の発展に対する業種の貢献度によって優遇内容は異なります。

この恩恵を受けられるのはタイの法律による会社設立や財団、協会だけです。タイに進出する場合、奨励業種リストに該当する外国企業のほとんどが申請しています。ただし、どの企業でも取得できるものではありません。

優遇措置

与えられる優遇措置は大きく分けて、「税制上の特典」「外資規制の緩和(外国人事業法の例外)」「事業用の土地所有の許可」「外国人就労許可条件の緩和」などがあります。

税制上の特典としては、輸入機械や原材料の輸入関税の減免や軽減、法人所得税の減免などです。また国の競争力を向上させる、デザインや研究開発を中心としたナレッジベース産業に関しては免除額の上限なしで、法人税が8年間免除されます。

また対象業種リスト8番目に含まれる「技術およびイノベーション開発」は、イノベーション開発を対象とし、バイオテクノロジー開発・ナノテクノロジー開発・先端材料技術・デジタルテクノロジー開発が特定のターゲット産業です。これらは、免除額の上限なしで10年間の法人税免除や、機械類する輸入関税免除などの恩典が与えられます。

なおタイ投資委員会(BOI)は、東京事務所や大阪事務所を構えており、セミナー・Webセミナー等を通じて投資家への情報提供やBOIの支援制度について発信しています。

タイの特別経済開発区

特別経済開発区

タイでは近隣諸国との連携のために工業団地の内外を問わずに特別経済開発区(Special Economic Development Zones:SEZ)が国境付近に設置されています。SEZ 内における製造およびサービス提供から生じた所得にかかる法人税率は10年間10%に減免されます。

この場合、本社の所在地は問われませんが、SEZ 内での製造活動やサービス提供から生じる所得が対象です。またBOIはSEZ に立地する「奨励対象事業」および「一般事業」に対して法人税の免税や軽減などの税務恩典を付与しています。

IEAT・CFZ

上記に加えてタイ国工業団地公社(Industrial Estate Authority of Thailand: IEAT)のフリーゾーンと関税フリーゾーン(Customs free zone: CFZ)があります。IEATに入居するにはタイに便益をもたらす工業や商業、またはその関連事業でなくてはなりません。IEATフリーゾーン内の事業者は必要な機械や設備、備品などの輸入関税、VAT および物品税免除などの特典が受けられます。

CFZはタイ国の輸出を支援、奨励するために関税法に基づいて新設された地域。ここに輸入された物品またはここで製造された物品は輸入関税、VAT、物品税が免除になります。CFZになるには関税局長官の承認を受けるとともに保証契約を締結することが求められます。

まとめ

タイでは2018年に東部経済回廊(EEC)特別法が施行されました。これはタイの成長を加速させる中核プロジェクトです。東部3県の次世代都市で特定の産業の新技術やイノベーション誘致を目指しています。スマート・エレクトロニクス、自動車、オートメーション、ロボット、航空、デジタルテクノロジーなどのプロジェクトが奨励されてさまざまな恩恵を受けられる内容です。

特別経済振興区に投資する外国法人や外国人には、税制上の恩典が付与されるだけでなく特別経済振興区内に限って外国人による土地所有や外貨での金融取引が可能になるため、海外進出を目指す外国企業にとっては魅力的な内容でしょう。新しい施策によって今後もタイへの投資が呼びこまれることが予想されます。

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