世界最大の金融センターであるイギリス・ロンドンや、世界最大級のインキュベーション施設を擁するフランス・パリなど、それぞれのエリアで異なるSU(スタートアップ)エコシステムが構築されている欧州。同エリアには、新たなテクノロジーを活用してサービスや事業を生み出す企業やスタートアップのほか、先端技術を扱う研究機関などが多く集積しています。

欧州のSUエコシステムには、それぞれの地域でどのような特徴があるのでしょうか。欧州全体、そして主要な都市のSUエコシステムの特徴をまとめました。

SUエコシステムとは

SUエコシステムとは、起業家や起業支援者、企業や大学、そして金融機関や公的機関が結びつきながらスタートアップを次々と生み出し、それらがまた優れた人材や技術、資金を呼び込んで発展を続ける様子を生態系になぞらえたものです。異なる強みをもつプレーヤーが集まり共同体として事業を営むことで、新たな市場の創造につながることが期待されています。

エコシステムの形成には、主に3つの重要な要素があります。まず一点目は、起業家などの優秀な人材。二点目は、大学などの教育機関。そして三点目は、事業やサービス展開に必要な資金を援助する投資家の存在です。

「SUエコシステム」という言葉はもともと、米国のシリコンバレーで誕生しました。しかし現在はシリコンバレーを超えて、世界中のさまざまな地域にエコシステムが広がっています。(SUエコシステムについての詳細はこちらから)

欧州のSUエコシステムの特徴

世界各国や地域で構築されているSUエコシステムには、それぞれ異なる特徴があります。

なかでも欧州のSUエコシステムは、米国や他地域と比べて、政府や自治体がスタートアップや研究機関に対して手厚いサポートを提供するケースが多くみられます。その一方で、国だけでなく州ごとに法の規制や税制が異なるため、それぞれの特徴をしっかりと理解することが重要です。

また、欧州ではEUの加盟国か否かでも、企業やスタートアップの事業に大きな影響を及ぼします。EU圏内では主に経済分野における統合を進めているため、EU加盟国として受けられるメリットがある反面、加盟国ではないからこそ得られる優位性もあります。そのため、欧州に進出する前には事前のリサーチや現地の市場調査が欠かせません。

主要国のSUエコシステムの特徴

欧州では各地域にSUエコスシステムが形成されています。ここでは、3つの主なSUエコシステムをご紹介します。

イギリスのSUエコシステム

イギリスは世界に先駆けて2016年、現行法に関わらず事業者が革新的な金融商品やサービスを顧客に試験的に提供できる仕組み「レギュラトリー・サンドボックス」を導入するなど、国として積極的にスタートアップをサポートしてきました。米国の調査会社「Staruup Gerome」が発表した2020年の「エコシステムランキング」によると、ロンドンは2012年の第8位から第2位へとランクを大幅に上昇させており、世界的にみてもイギリスのSUエコシステムの存在感が強まっています。

国内には名門大学や研究機関がロンドン、オックスフォード、ケンブリッジに多く集積しており、最新技術のイノベーションがこうした地域から日々生まれているのも特筆すべきポイントです。

フランスのSUエコシステム

フランスには、国立情報学自動制御研究所(INRIA)など高度なAI研究を行う研究機関が多く集積しています。こうしたAI人材が魅力となり、米グーグルや米マイクロソフト、韓国サムスン電子といったIT企業の多くがフランスにAI研究拠点を設けています。政府は2018年〜2022年までに、総額15億ユーロをAI分野に投資することを発表しており、AI開発を手がけるスタートアップも多く生まれています。

AI以外の分野では、フィンテック、アグリテックなどのスタートアップにも注目が集まっています。また、積極的に海外のスタートアップや有能な人材の呼び込みにも注力しており、政府もさまざまな制度の導入を進めてきました。例えば「French Tech Visa」といわれるビザでは、起業家に加えその従業員や投資家、家族も対象として発給することができます。

ドイツのSUエコシステム

ドイツも国としてSUエコシステムの形成や先端技術の研究開発に力を入れています。2018年に打ち出した「ハイテク戦略2025」では、現在の対GDP比3のRD(研究開発)投資を、2025年までに3.5%まで引き上げると公表しました。ライフサイエンスやモビリティー分野での研究開発が進められています。

また、連邦政府や州政府それぞれのレベルで企業やスタートアップの研究開発をサポートするプログラムを充実させており、企業やスタートアップは一つのプロジェクトに対して、複数レベルの助成プログラムに応募することが可能な点も魅力のひとつです。

ドイツのスタートアップを対象に行った2020年の調査では、新型コロナ禍にあってもビジネス環境は比較的安定していることが判明しました。調査実施時のビジネス環境について「良好」が32.3%、「変化なし」が49.9%と続き、「悪い」との回答は17.8%にとどまっており、今後の成長が期待されています。

まとめ

同じ圏内ではありながらも、それぞれの国やエリアごとに異なるSUエコシステムが構成されている欧州。日本から進出を考える際には、自社の事業の特徴や注力したい研究開発分野を見極めた上で、相性の良いエリアを選択することが、欧州での海外展開の成功につながるはずです。

都内スタートアップの海外進出をサポートする「X-HUB TOKYO」では、各地域のSUエコシステムのトレンドや海外展開に必要な情報の発信だけでなく、実例を踏まえたアドバイスやサポートを提供する機会も設けています。

また、海外のグローバルオープンイノベーション、日本企業の事業創出をテーマとするイベントなども随時開催しています。最新のイベント情報をチェックして、海外展開に向けた一歩を踏み出してみましょう。

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