海外進出では、想定できないリスクが多くなります。そのためリスクマネジメントを徹底させ、リスクの影響を最小限に留める努力が欠かせません。

海外での「リスクマネジメントの重要性」

海外進出では、国内での事業展開とは違うリスクがあります。国内外に関わらず、近年リスクマネジメントの重要性が説かれていますが、国内と海外では想定すべきリスクの種類が異なります。そのため、海外進出を考える日本企業は、国内事業とは分けてリスクマネジメントの体制を構築しなければいけません。

実際に海外進出を行った企業の中には、海外事業に失敗して撤退している企業もあります。その中でも、いざ問題発生時に適切な対応ができなかった、事前の準備がなかったために損害が拡大し、撤退の危機に陥るケースが多く見られます。

規模の小さい企業の場合には海外事業の失敗が国内事業経営にも大きな影響を与えることがあります。中小企業・ベンチャー企業でも海外進出を行う企業が増えていますが、進出には十分なリスク管理・リスクへの対策が必要となるでしょう。

カントリーリスクを考慮

海外ビジネスを行う際には、「カントリーリスク」を考えなくてはいけません。カントリーリスクとは、投資する国で発生する政治や経済、社会情勢の変化、地震や噴火などの自然災害に起因する影響(リスク)のことをいいます。一般的に先進国と比べて、人件費が安く海外進出候補に挙げられるような新興国の方がカントリーリスクは高いと言われています。

海外での事業展開では、進出前の調査段階で十分なリスク調査を行い、さらに事業開始後も定期的な調査を行うことが大切です。とくに不安定な社会情勢のエリアや経済や社会環境が大きく変わりつつある局面では、コンスタントなリスクアセスメントが欠かせません。

「労働雇用問題」のリスク


労働雇用問題のリスクは、国内外問わず企業の関心の高い分野ですが、海外進出では国内にはないリスクを抱えることもあります。海外で事業を行うにあたっては、労働や雇用に関する法律も違いますし、文化や環境も違います。そのため、様々なトラブルが起こりやすいといえるでしょう。

労務法制を把握

法規制などは、現地に詳しい弁護士や会計士などの専門家の力を借りることで、クリアできることもあります。たとえば、日本では10人以上の労働者を雇用する場合には、就業規則を作成し届け出ることが義務付けられています。しかし、フィリピンやマレーシアでは就業規則の作成義務はありません。労働時間や賃金、解雇・退職金についてなど、その国ごとの傾向やルールを把握するようにしましょう。

進出する国によっては、外国人と現地の採用人数に決まりがある場合もあります。国ごとに定められている制約があるため、労務トラブルを避けるためにも専門家の意見を聞くことをおすすめします。

人材育成・コミュニケーションの問題

また、現地従業員の雇用や育成などの面では生活習慣や文化などによるデリケートな問題も多いものです。言語やコミュニケーションの問題をはじめ、時間に対する考えなど、現地の従業員と日本から派遣された従業員との考え方の差や違いによって起こるリスクを考えることも必要です。

また、現地採用と本社からの派遣で将来的なキャリアパスや待遇に差があることで、心理的に軋轢や衝突が起こることもあります。もともと定着率が日本に比べて高くないと言われている外国においては、どのようなモチベーションで働いてもらうのが適切か、どのようなサポートをすべきか、人材の育成方法についても考えておかねばなりません。

「法務」リスク

海外進出における法務リスクの主なものとしては、カルテルなどの競争法に関する違法行為や公務員等への利益供与、インサイダー取引などがあります。国内でも違法行為として挙げられているものもありますが、海外進出ではとくに現地の法規制に則った経営を意識することが必要です。

法務リスクを管理するためには、現地での法規制を理解し、その変化についてもスピーディーに対応することが必要となります。万が一対応が遅くなってしまった場合や、間違った対応をした場合には、巨額の罰金が発生する賠償リスクや事業停止のリスクすらあるのです。

まずは現地の法規制に従った社内ルールの徹底を行いましょう。社内ルールを整備し、ルールに従って従業員管理や業務管理を行っていくことで、統一的に法務リスクをコントロールできます。また、社内規則を整備することで問題発生時でも最小限の被害・損害に抑えやすくなります。

「政治・経済環境」の変化

海外進出では、ある程度想定していても完全には回避できないものがあります。それが政治や経済環境などの変化です。新興国をはじめとした国々では政治・経済情勢が安定していないこともあります。また、どのエリアに関わらず、国全体にも及ぶようなバブル崩壊などの経済的事件が起こる可能性もあるでしょう。

暴動など治安の悪化によって安全を脅かされることもあるため、慎重な対応が求められます。発生時のマニュアルやルールの設定と政治・経済情勢に関する情報収集を常に行うようにすることが必須です。

海外進出におけるリスクマネジメントの「取り組み方」

リスクマネジメントでは、本社と海外拠点が共通理解と同じ方向性を持って取り組む必要があります。まずはリスクマネジメントの目的や方向性を決定し、社内での意思統一を目指します。また、海外事業がスタートしたら、国内本社と海外拠点にそれぞれリスクマネジメントの担当者・責任者をおき、連携をとって進めて行くことが大切です。

リスクマネジメントの展開の流れとしては、リスクの想定、発見、リスクの評価(リスクアセスメント)、リスクへの対策の選択、実施となります。対策後は残留リスクとリスクマネジメントの評価を行い、次の対策へとつなげていきます。

可能であれば現地主導でリスクアセスメントの体制を構築するのが理想的ですが、そうでなければ国内事業所・本社が主導で聞き取りなどの調査を行います。効率的に対策をしていくためには、リスクの種類によって対策の責任、所管部署を定めておくことも大切です。

最終的には現地主導での取り組みが望ましい一方で、人材やスキル、ノウハウ等の点で、初期は本社主導で実施することがやむを得ない選択となる場合もあります。

リスクを事前に防ぐ「情報収集の大切さ」

海外進出では、情報不足によって起こるリスクがあります。そういった点については、事前準備段階での情報収集から海外事業がスタートした後の絶え間ない情勢のチェックで対応していく必要があります。特に、現地の慣習や宗教、文化、

またインフラ・物流事情などについては、あらかじめ情報を得やすいものです。また外資、労働、商取引などの法規制・税制についても現段階のものを知ることは可能となります。調査を行い、得られた情報からリスクを想定することで事前にリスクをある程度排除していくことができるでしょう。

リスク調査では、市場調査など準備のために自社社員が直接現地へ出向くことが必要です。その前に進出先の選定のために国内で予備調査を行ってもよいですが、最終的には自分の目で見て確認することが欠かせません。そのため、海外進出には多額の資金がかかりますが、中でも出張費は大きくなりがちです。事前調査には、各専門機関のデータベース・市場レポート・海外ニュースなどが使えます。

まとめ

海外進出においては、労務関連、法制面や政治情勢などのリスクがあり、それらを事前調査段階から進出後まで適切に管理する必要があります。リスクマネジメントは利益を生むものではないので、なおざりにされがちですが、明確に担当者や担当部署を決め、会社の守りを固める必要があります。

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