海外進出の際には、海外に派遣する社員に対して、様々な労務管理が必要となります。海外進出計画とともに、労務管理の在り方の模索や必要となる現地情報の収集を行いましょう。

海外勤務者に対する労務の基本知識

海外進出の際には、現地へ本社から日本人社員を派遣して勤務させることが多いものです。現地雇用を通して人件費の削減やローカライズ化を目指すのも必要ですが、スタート時の経営や管理など、日本人社員を置く必要性は高いものとなります。

こうして海外に拠点を持つ場合には、海外赴任地の法規制に基づいて労務管理を行うことが必要です。海外では現地の労働法に従うこととなり、日本国内の労働法の規制を受けることや権利を得ることはありません。

とはいえ、日本の労働基準法などで決められた範囲を著しく超えて過重な労働をさせることはできませんし、快適な状態で海外勤務に当たってもらうためには適切な配慮が必要です。当然、海外の労働関連法に違反することもできません。

海外勤務者に対する労務管理は、新天地で社員が安全かつ不満・不安なく働き、生活できるようにする必要があります。まずは、日本とは違う規定を知るために、進出先の現地の法規制について調査することから始めましょう。

給与の設計

海外進出をするにあたって労務管理として考えるべきは、給料の問題です。海外赴任者の給料設計においては、国内で勤務していた時の生活レベルが下がらないことを基本条件として考える必要があります。

海外では、日本国内と物価や税率も違いますし、赴任先の現地の社会保険にも加入しなければいけない場合、社会保険料も負担が必要です。また、支払う通過によっては為替レートの変動リスクも関係します。

基本的には、海外での給与については「ノーロス・ノーゲインの原則」という考えに基づいて、損も得もなく、日本国内と変わりない給与が得られるように調整する方法をとる企業が多くなっています。中でも物価の高い国・地域へ進出した企業では、主に「購買力補償」という方式がとられています。

日本の賃金水準を基準にして、現地の生活費指数や為替レートに基づいて賃金を決める方法です。また、それ以外の方法としては「別建て方式」「併用方式」などがあります。

赴任地と日本国内の税務処理

海外進出の労務関連で考えるべき点としては、海外赴任者の給与に対する税金も挙げられます。海外赴任者の給与で税金を納める場所は、様々な要件によって日本か赴任した現地かのどちらかになります。

基本的には、どの国の「居住者」になるかがキーポイントです。

まず短期赴任の場合には、日本の「居住者」となり、日本で受けた給与も海外で受けた給与も日本での課税対象となります。一方で、海外の給与には海外で税金が課せられますが、二重課税となるため租税条約のある国に関しては183日ルールが適用されます。

これは、滞在期間183日以下の場合、海外では課税しないというルールです。

長期赴任の場合には、日本では「非居住者」となり、海外の赴任先で課税されます。ただし、役員の場合には、どこに赴任しても、基本的には税金の支払いは日本になります。

それぞれのケースによって違った課税方法となるため、海外進出を検討している企業では派遣予定の社員に対して期限を明示して辞令を出すことで二重課税や納税漏れなどのトラブルを予防することが必要です。

海外派遣者用の労災保険特別加入制度

海外赴任者は、労働関連の日本の法律の範囲とならず、労災保険についても適用されなくなってしまいます。そこで海外赴任者は、国外の赴任先での労災制度の適用対象になり、赴任先国の制度で補償を受けることになります。

ところが、日本と諸外国では労災制度の補償内容に違いがある、補償内容が不十分であるなどの問題も起こります。そこで、こうした問題を解決し、日本と赴任先での不平等が起こらないために「海外派遣者用の労災保険特別加入制度」があります。

これを利用するためには、企業の管轄の労働基準監督署への申請が必要です。海外赴任者の健康と安全、いざという時の補償のために申請は必須となります。

社会保険

海外赴任者にとって負担が増えるリスクとなるが、社会保険料です。日本国内での社会保険料と海外の現地での社会保険料の二重支払いになる恐れや、現地の社会保険料の金額が日本よりも高いことなどによって、赴任者の生活を圧迫する恐れがあります。

また、赴任先での税負担についても、各国の税率の違いによって負担増のリスクを持っています。

こうした海外ならではの金銭的負担においては、一般的には企業が緩和措置として給与の増額や会社負担にするなどの対応がとられています。また、ケースによっては日本での社会保険の加入を継続するか廃止するかといった検討も必要です。

赴任先で海外勤務者が快適に過ごすために


海外進出では、海外勤務となった社員に重要な役割が与えられることも多くなります。そのため、やりがいのある仕事である反面、心身の負担も大きくなりがちです。

また、日本で生活や労働をしていた時と比べて、労働環境や生活環境が著しく変わることで不満が出ることもあります。

こうした負担や不満、不安を抑えて快適な労働環境を整備するのも労務管理の一環です。赴任した現地の慣習や法規に従うことも必要ですが、日本での生活レベルや労働条件と著しく差が出た場合には、金銭面などで補填することも大切になります。

企業の方針や資金によって難しいこともあるでしょうが、海外進出を成功させるキーパーソンである海外勤務者が力を十分に発揮できる環境を作ることは欠かせません。

また、海外への派遣について就業規則や入社時の契約書や宣誓書に明記していない場合には、原則として社員の合意なく命じることはできません。トラブルにならないように、海外進出を考えている場合にはあらかじめ就業規則の整備を行っておきましょう。

まとめ

以上のように、現地の労働関連法、給与体系、税務、労災保険、社会保険など、日本で当然となっているシステムについて、海外に展開する際には改めて一から理解するところから始める必要があります。

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