海外進出の推進とともに為替リスクは高まる恐れ

日本では少子高齢化、GDPの低迷などによる内需の縮小化に鑑みた海外進出が進んでいます。大企業から中小企業まで、さまざまな形での海外進出がスタート。もっともコストがかかりリスクも大きい直接投資や海外拠点設置をはじめ、輸出やECサイトを活用した海外市場参入など、省コスト・低リスクの方法を用いた企業も増えています。

こうした海外進出の増加は、世界市場という大きなブルーオーシャンを目指すもの、メイドインジャパンの高品質による日本製品の人気に乗じて販路を獲得しようとするものなどいろいろな思惑が関係しています。しかし、日本企業の世界への挑戦はリスクなしには行えません。

海外進出における為替リスク

さまざまなリスクは、計画段階での綿密な情報収集やマーケティング戦略、現地とのコミュニケーションなどで一定程度回避可能です。しかし、為替リスクに関しては完全に避けることはできず、海外進出すればずっと付きまとう問題となります。

まずは、円を対価として外貨建ての取引を行うことは常にリスクが伴うことを理解しておきましょう。輸出取引であれば円安になれば為替差益が生じる可能性があり、円高になれば為替差損を被る可能性があります。反対に、輸入取引であれば、円高で為替損益が生じ、円安で為替差損を被ります。

当然ながら、外貨建て資産の保有割合が高いほど、為替エクスポージャーは増加します。つまり外貨建て取引が多くなればなるほど、為替リスクも高くなるということです。現地法人数が増えて海外生産比率が増加するほど外貨建て資産や取引が増え、それに応じて予期しない為替変動の影響を受けやすくなるのです。

そもそも為替リスクとは何か

為替リスクとは為替変動リスクとも言われ、為替相場の変動によって利益や損失が発生するリスクのことです。為替相場は異なる通貨を交換する際の交換比率を指し、円・ドル為替相場以外にも、その他の通貨の組み合わせの為替相場が存在します。

たとえば、海外とのやり取りとなる貿易取引は使用する通貨が異なるため、為替リスクが生まれやすいです。為替レートは常に変動しているため、入金のタイミングによって支払額に増減が生じ、採算を確保することが困難になります。為替相場はさまざまな要因から変動するものですが、為替リスクは以下の3つに分類することが出来ます。

為替取引リスク

為替取引リスクは、為替相場の変動によって取引の決済時に自国通貨建ての換算金額が変動するリスクです。契約日と決済日の為替レートが同じではないため、その不確実性が為替リスクとなり、決済時の為替差損益は実際のキャッシュ・フローにも影響します。

為替換算リスク

為替換算リスクは、実際に取引を行なっていない「外貨建ての資産や負債の評価額」が為替の変動により増減することで発生する評価損のことを言います。実際に取引をするまで損益は確定しないため、キャッシュ・フローには影響しませんが、今後の使用予定を踏まえ、企業の資産や負債を把握する意味でも常に注目しておくことが必要です。

為替経済性リスク

為替経済性リスクとは、為替相場の変動によって価格競争力が影響されるリスク、あるいは企業の生産構造に変化が生じるリスクのことです。企業の採算性や競争力が失われると、事業撤退をせざるを得なくなってしまうなど、企業経営全体に影響を与えます。

海外進出企業の為替リスクへの対策


海外進出においては、企業は常に為替リスク管理に当たり、為替の影響を最小に抑えることを考える必要があります。

為替リスクの管理

為替リスク管理の考え方としては、計上される為替レートと決済レートの管理もありますが、想定レートの変動を回避するのも重要な目的です。また、外貨建て資産・負債の時価評価や外貨建て配当金などの管理もあります。こうした為替リスク管理のターゲットを明らかにしておくことも大切です。

為替リスクは、これまで日本企業が海外進出したノウハウの蓄積によって、各企業が回避方法の選択や実行を進めています。先物為替予約や通貨オプション取引などは、為替リスクの回避手段としてはメジャーなものです。

先物為替予約

先物為替予約とは、外国為替取引において将来の決められた期日または期間に、現時点で取り決めた価格で売買を行うことを予約する為替売買取引です。一度予約をすると原則取り消しや変更をすることは出来ないため、期日に受け渡しの義務が発生します。

先物為替予約は為替メリットを失う可能性もありますが、利益確定が早く、為替変動による不安定性を排除できる手段として利用されます。

通貨オプション取引

通貨オプションとは、特定の通貨を一定の期間(行使期間)に、事前に定められた為替レート(行使価格)で購入または売却することができる権利です。この購入できる権利を「コール・オプション」、売却できる権利を「プット・オプション」と言います。通貨オプション取引とは、この通貨オプションを売却または購入する取引を指します。

先物取引が売買の契約なのに対し、通貨オプションでは売買の権利のみを購入することで不利な状況での取引を避けることもできます。通貨オプションは、主に銀行や企業間で取引がされていますが、輸出入業者が為替レート変動への効果的なヘッジ手段として活用するケースも見受けられます。

輸出での為替リスクの対策

インボイス通貨の選択

インボイス通貨の選択も、輸出を行っている企業などにとっては重要となります。主に日本ではアジアや先進国などへの輸出が盛んですが、輸出先ごとのインボイス通貨の選択は為替リスクに大きな影響を与えるものです。輸出先企業と自社の為替リスクの比重にも関係していますが、価格設定にも影響があります。

自国通貨(円建て)での取引

世界的にトップシェアを持つ製品などでは、為替リスク回避のために円建てで輸出を行うことも多いです。ただし、全体的には円建ての比率は減ってきており、ドル建てでの取引や輸出先通貨の選択などが多くなっています。特に先進国向けに輸出を行っているケースでは、輸出先通貨建ての取引が多く見られています。また、ヘッジコストが低ければ低いほどこの傾向は強くなります。企業内貿易でも輸出先通貨建ての取引が多いようです。

また、アジア向けの輸出では、厳しい資本規制によってドル建てを選択することが多くなっています。ただし、規制が自由化されているシンガポールや香港、韓国等への輸出に関しては、それぞれの輸出先の通貨建てで行っていることもあります。

本社と同一通貨に

本社と海外拠点の輸出入において通貨を統一させることも、為替リスクに有効な方法です。輸入も輸出も同じ通貨建てにすることによって、為替リスクを相殺できる手段です。外貨の債権と債務の相殺をする方法も同様です。海外で商品を販売する場合、製造から原材料や部品などを現地で調達するなどの対策も役立ちます。こうした方法は為替エクスポージャーをなくし、為替リスクを抑える主な手法として輸出企業で使われています。

まとめ

海外進出においての為替リスクは切っても切れない問題です。そのため、常に為替リスクをどのように管理していくかの課題に取り組むことが大切です。輸出先の国や地域、取引先との関係、事業展開などに応じて適切な選択をしましょう。また、為替リスクの負担を減らす選択をするためには、世界で競争力を持つことも大切です。

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hawaiiwater

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