海外進出や海外展開をする企業が増加するとともに、自社ブランドの模倣や技術流出などの問題点もクローズアップされてきました。自社のブランドと技術を守り、販路や売上の縮小や自社イメージのダウンなどを避けるには特許取得が必要です。

海外進出を考えている企業などは、はじめに海外進出での国際特許の重要性や制度をチェックしておきましょう。

海外進出での国際特許の重要性

特許権は取得した国のみで有効

海外進出で国際特許が必要になる理由は、特許権、商標権、著作権といった知的財産権の制度が各国で独立しているからです。日本で特許を取得していたとしても、海外で商品や製造ノウハウを提供し、それを模倣されたら太刀打ちできません。

自社製品を模倣されると進出先で模倣品との競合が起こり、売上がダウンして、安価な現地の商品に負けてしまうこともあります。大きな投資をする海外進出において、予想外の売上低迷は大きなダメージにつながるリスクです。

世界共通の特許権は存在しない

「国際特許」や「世界特許」といった、世界共通の特許権があるわけではありません。実際には、国際法上の属地主義という考え方により、日本の特許権は日本での製造・販売にのみ適用されるからです。属地主義とは、法律の適用範囲や効力範囲は、その権利を認めた国の領域内のみ有効であるとする主義や考え方のこと。

日本で取得した特許権は、外国での製造・販売などの権利がないため、外国でも製造や販売を行う場合にはその国ごとに特許権を取得しなければなりません。自社の知的財産を守るためには特許権に加え、実用新案権や意匠権、商標権の出願が必要になることもあります。海外進出を図る場合には、まずは自社製品や技術に対し、特許権の出願を進めましょう。

外国出願のルートや内容の検討

自国以外の国に対して行う特許等の出願を「外国出願」といいます。外国出願するにあたり、注意すべき点を確認してください。

出願ルートやコストの問題

海外進出では、自国の特許は通用しなくなるため、進出先の国で特許の出願を行います。外国出願は進出先の特許庁で行い、出願する際には、代理人に依頼するのが一般的です。そのため、出願費用に加えて、代理人費用がかかります。

また、特許や実用新案出願には明細書の翻訳などが必要となり、そのコストも覚えておかなければなりません。むやみに権利を取得する国を増やしていくと、その国ごとに費用は嵩みますし、手続きの手間もかかります。まずはどのように自社製品や技術の特許出願をするのが適切か、出願国やタイミングを考えてみてください。

海外進出に必要な出願を検討

海外進出する際には、すべての知的財産権の出願が必要というわけではありません。自社のビジネスの目的や方法に応じて、必要な出願だけを行うことで、経費を抑えることができます。

知的財産の出願は進出国ごとに行わなくても良い場合もあります。具体的には、条約や協定を交わした加盟国であれば、1通の出願で複数国に出願したこととなる出願方法の利用です。PCT国際出願(特許)やハーグ出願(意匠)、マドプロ出願(商標)などがあり、それぞれの加盟国においてそれぞれの知的財産権の出願ができます。

もちろん、出願したものがすべて認められるわけではありません。それぞれに審査が行われるため、日本で特許の得られたものでも認められないこともあります。

海外進出における特許の出願方法


外国出願をする場合には、大きく2つの方法があります。

各国へ直接出願(パリ条約に基づくルート)

進出先の国の特許庁に個別で出願する方法です。ただし、進出先で直接出願をする場合、最初から外国出願するのは稀なケースになります。まずは国内特許を出願し、パリ条約に基づいて優先権を主張し、各国へ出願する流れが一般的です。

パリ条約とは、正式名称を「工業所有権の保護に関するパリ条約」といい、1883年にパリで締結された国際条約のことです。パリ条約には約175カ国が加盟しており、「特許、実用新案、意匠、商標、サービス・マーク、商号、原産地表示又は原産地名称及び不正競争の防止」など、工業所有権の保護を目的としています。

パリ条約で定められた内容に基づき、日本で特許出願してから12か月以内(意匠・商標の場合は6か月以内)であれば「優先権」を主張することができます。自国で特許出願し、外国でも同じ内容で特許出願をしたいという場合に使用されます。期間内にパリ条約加盟国に特許出願をすれば、日本における出願日が外国でも出願したとみなされるため、審査においても有利な方法といえます。

参考サイト:特許庁「パリ条約」

PCT国際出願

PCTとは、Patent Cooperation Treatyの略で、1970年に締結された特許協力条約のことです。PCT国際出願とは、この条約に基づき特許出願を行う方法です。

PCT国際出願の特徴は、日本の特許庁に国際出願をすれば、他の条約加盟国すべてに出願したのと同じ効果を得られることです。ただしPCT国際出願は、あくまでも「出願手続」であり、そのまま審査に移行することはありません。特許権を取得するためには、それぞれの国で「国内移行手続き」を行う必要があります。

国内移行手続きは、各国の求める言語による翻訳文の提出、場合によっては手数料の支払いが必要になります。手続きは日本での出願日から30か月以内と定められており、パリ条約に基づいたルートよりも期間が長く設けられています。そのため、どこの国で特許出願をするか、市場の動向を見ながら検討する時間があるのがメリットのひとつです。

また国際出願に対しては、その発明に関する先行技術の有無を調査する国際調査が行われます。調査報告や審査官の見解は出願人に提供されるので、出願国の選択や国内移行を進めるかどうかの判断に役立ちます。PCT国際出願は国際的な手続きですが、国内移行した後は、その国の国内出願と同等の取り扱いになります。特許権を取得できるどうかは、各国の特許庁が実体的な審査等を行なって決定します。

参考サイト:特許庁「PCT国際出願制度の概要」

海外進出の特許出願についての公的補助

中小企業等外国出願支援事業(特許庁)

「中小企業等海外出願・侵害対策支援事業費補助金」は外国への事業展開を計画している中小企業に対して、特許庁が外国出願にかかる費用を助成する支援事業です。

中小企業の海外進出において、外国出願費用をはじめとする海外での知的財産の権利取得は負担が大きくなりがちです。特許出願は自社のブランドや技術、デザインなどを守るために重要ですが、資金の少ない中小企業には金銭的な負担の大きさによって難しいケースもあります。

その負担を軽減し、日本の中小企業の優れた技術を守るために特許出願に関わる必要経費の一部を負担するのが「中小企業等海外出願・侵害対策支援事業費補助金」です。利用できるのは、中小企業や中小企業で構成されたグループ、個人事業主など。また、地域団体商標では、商工会議所やNPO法人も含まれます。

補助対象の経費

  • 外国特許庁への出願手数料
  • PCT国際出願(特許協力条約(PCT)に基づく国際出願)の国内移行費用
  • ハーグ出願(意匠の国際登録制度)費用
  • マドプロ出願(マドリッド協定の議定書に基づく国際出願)費用
  • 冒認出願の対策を目的とする商標の外国出願費用
  • 国内外代理人費用
  • 翻訳費

窓口は、独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)と各都道府県等中小企業支援センター等です。上限額を1企業300万円とし、経費の半額まで補助できます。応募は上限金額内であれば複数可能です。

海外商標対策支援助成事業(東京都)

また、東京都内の中小企業へ向けた類似商標への対策支援の助成金もあります。「海外商標対策支援助成事業」は、中小企業の海外進出や販路拡大をサポートする事業です。海外拠点、進出予定国での他社類似商標等への対策と経費の助成を行います。

助成対象の経費

  • 情報収集関連費用(証拠収集・調査等)
  • 異議申立不使用取消審判、無効審判、行政訴訟関連費用

上限額は500万円とし、経費の半額以内が助成率です。女性対象期間は2021年12月31日となります。また、弁理士や海外法律事務所と連携した支援も行っています。窓口は東京都知的財産総合センターです。

資金の乏しい中小企業では、海外進出の際に自社ブランドを守るため、こうした公的支援を検討することも大切です。日本の高い技術やブランドを守ることで、メイドインジャパンの価値をさらに高めることができるでしょう。

参考サイト:
特許庁「中小企業等海外出願・侵害対策支援事業費補助金
特許庁「中小企業等外国出願支援実施機関
東京都中小企業振興公社「海外商標対策支援助成事業」「「知的財産活用製品化支援助成事業

まとめ

海外進出を考える企業では、国際特許の出願が必要です。日本国内で守られた権利は、海外で同様に守られるわけではありません。特許出願は手続きが難しそう、費用が高いと思われていますが、手間やコストを抑えて出願する方法もありますし、中小企業では補助金も利用可能です。自社のブランドや技術、デザインを守るために、海外進出の準備に国際特許の出願を加えましょう。

著者情報

hawaiiwater

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