企業経営において税金関係の知識は不可欠です。税金に関することでとくに面倒なのが、海外での利益がある場合です。海外で利益を上げた場合はどのように課税されるのでしょうか。

海外進出の方法で変わる課税システム

海外で仕事をするときには、常にどちらの国の法律や税制が適用されるかを考える必要があります。そこで重要となるのが、海外法人を設立した時の形態です。海外法人を設立する場合には、その形態は海外支店と外国子会社の大きく2つに分けられ、形態によって異なる税制が適用される場合があります。

海外支店

海外支店の場合、支店が置かれている国によって海外支店の利益にかかる税金が変わります。また、海外支店は、海外にあるにもかかわらず、日本にある本店と同じ会社の扱いになるため、日本での税金が発生します。しかし、この課税方法では、海外支店がある国と日本の両国から、二重に課税されてしまいます。そこで生まれたのが外国税額控除制度です。

この制度によって、日本の本店と海外支店の損益は合算され、海外支店で赤字が出た場合は、その赤字は日本支店での利益と合算されます。その結果、会社全体としての税金を減らすことができ、バランスがとられるという仕組みです。ランスがとられるという仕組みです。

外国子会社(現地法人)

一方で、外国子会社の場合には、日本の親会社とは別の法人格を持ちます。外国子会社が得た利益は日本本店が稼いだ利益と合算されることはありません。そのため、外国子会社がある現地の国での税金がかけられた後は、原則として日本での税金がかけられない仕組みになっています。

日本の親会社が外国子会社から配当金を受け取る場合には、受取配当金の益金不算入の制度を利用することができます。そのため一定の要件を満たせば、外国子会社からの配当金について、その95%は日本の親会社の所得に含めなくて済むのです。

一般的には現地子会社を設立して海外進出するケースが多く見られます。また国によって法人設立の許認可が違うため、その国の法律や規制の関係で、支店ではなく外国子会社でないと設立できないケースもあります。そのため、事前にその国の法律や規制を調べ、海外進出の際には適切な形態を選択する必要があります。

二重課税とは

日本に居住する人にとって、国内に本店がある企業が稼いだお金は日本で稼いだものでも外国で稼いだものでも日本で税金がかかります。しかし、外国ですでに課税されている場合、同じ所得に対して二重で税金がかけられてしまうことも。二重課税とは、このように異なる国で同じ所得に対して、それぞれの国で税金がかかってしまうことを指します。

国際的なビジネスにおいてよくある問題のひとつであり、企業にとっては大きな負担となる場合があります。たとえば、日本に本社を置く企業が海外で事業を行い、海外で得た利益に対して現地での課税と日本での課税が重複してしまった場合、二重課税となります。

このような場合、同じ所得に対して二重に税金を払わなくても済むよう、各国間で二重課税を防止する「租税条約」が締結されています。

外国税額控除とは

前述した二重課税を取り除くために「外国税額控除」という制度もあります。外国税額控除により、たとえば海外支店が外国で納めた税金について、日本で納付すべき税金から直接差し引くことができます。ただし、外国で納めた税金の全額を差し引くことはできず、外国税額控除限度額が設けられています。

外国税額控除限度額は、その年の法人税額等×その年の国外所得/その年の全世界所得で求められます。つまり、日本で納めるべき税金が外国で支払った税金よりも多い場合、限度額を超えた分は日本で納める税金から差し引くことはできません。

ただし、超過分は翌年以降3年間繰り越すことができるため、無駄なく利用することができます。このように、外国税額控除は、海外で事業を行う企業や個人のために、財政的な負担を減らすための大切な措置となっています。

タックスヘイブンとは

タックスヘイブンとは
海外で稼いだお金は海外で課税されるため、海外進出先の税率や税制度は大変重要です。日本の法人税率は世界的に見て決して低い税率とは言えません。近隣アジアやOECD加盟国ではさらに低い税率を採用している国が多くあります。さらに世界を見渡すと、法人税を極端に低くすることで海外企業を誘致している国も存在します。

こういった国は節税目的で多くの企業や富裕層が利用しています。これらの国を「タックスヘイブン」と呼びます。タックスヘイブンとはtax haven、直訳すると租税回避地を意味する言葉です。日本のように比較的税率が高い国からタックスヘイブンに海外法人を設立して、自国の納税を回避する企業や富裕層も多くいます。代表的なタックスヘイブンとして、イギリスの海外領土ケイマン諸島、イギリス領ヴァージン諸島などが知られています。

ただし、日本ではタックスヘイブンを利用して納税を不当に免れようとする租税回避を防ぐために、タックスヘイブン対策税制があります。租税回避とみなされる外国子会社等がある場合は、親会社の利益と合算されて日本で税金がかかります。

タックスヘイブン対策税制の対象・適用除外の条件

タックスヘイブン対策税制は、ペーパーカンパニーのような経済実体のない会社が対象です。それぞれの条件を確認しておきましょう。

タックスヘイブン対策税制の対象

タックスヘイブン対策税制の対象となるのは、租税回避が目的とされる経済実体のない外国子会社等(ペーパーカンパニー、事実上のキャッシュボックス、ブラックリスト国所在法人)や、外国関係会社に当てはまる場合です。この税制は、タックスヘイブンを利用して租税回避を行う企業や富裕層を抑止するために導入されています。税制の対象となった外国子会社は、親会社の利益と合算されて日本で課税される仕組みになっています。

タックスヘイブン対策税制の適用除外基準

租税回避目的でなく、純粋に事業を目的に海外法人を設立することもあるでしょう。租税回避を目的としない事業所は、税率負担にかかわらず、タックスヘイブン対策税制の対象になりません。これは、タックスヘイブンにおいても、租税回避を目的としない事業所があることを考慮したものです。

具体的には、ペーパーカンパニー等でないこと、外国子会社の事業内容が「4つの経済活動基準」を満たしているかどうかが大きなポイントになります。まずは、外国子会社の事業内容が、親会社の事業内容と一致するかどうかを確認しましょう。ただし、外国子会社の事業活動が、親会社の事業活動に補完的なものである場合は、適正性が認められる場合があります。また、海外子会社が適正に経営されていることも条件のひとつです。適正な財務管理が行われていることや、外国の法令を遵守していることが求められています。

2017年の税制改正により、対象となる外国子会社や課税対象の範囲が拡大しました。事務負担や合算課税のリスクが増しているため、タックスヘイブン対策税制の適用除外を検討する際には、事前に十分な調査が必要になります。

参考サイト:日本貿易振興機構(ジェトロ)「タックスヘイブン対策税制:日本」

まとめ

海外進出には販路の拡大や生産コストの削減などさまざまな目的があります。また、海外進出することによって海外の税制を利用して節税するのも戦略のひとつです。海外進出する際は進出先の税制や法律についても事前に調査しておくようオススメします。

アメリカで法人税率が引き下げられたように、今まで税率が高かった国も産業を国内に留める目的で税率を引き下げ始めています。これからも減税競争が進むと考えられ、今後の動向が注視されます。税制だけを目的に海外法人を設立すると税制自体が変わってしまうこともあるので注意しましょう。

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hawaiiwater

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