海外進出した後、必ず問題となるのが設立した海外法人の管理です。管理が行き届かないと決算時にトラブル等が発覚することもあります。海外法人の連結決算についてまとめました。

海外子会社との連結決算とは

連結決算とは、親会社だけではなく、国内・海外子会社および関連会社を含めたグループ全体で行う決算方法のことです。企業グループ全体をひとつの集団として、親会社がその財政状況や経営成績、キャッシュ・フローの状況に関して報告をします。

その報告時に作成されるのが「連結決算財務諸表」であり、連結貸借対照表や連結損益計算書・連結剰余金計算書などから構成されます。連結財務諸表はそれぞれの会社の財務諸表を基に作成されますが、個別の決算情報を単純に連結するのではなく、連結決算手続きを行なった上で連結されます。

日本における連結会計導入の背景

日本で連結会計が行われるようになったのは、1964年から1965年にかけて多発した、連結子会社を利用した粉飾決算の事件が背景にあります。その必要性が認識されるようになった1977年の決算から、連結財務諸表の作成は義務化されました。その後、世界基準に合わせた会計基準の整備が進められ、1999年の決算より連結財務諸表が主となる改正がなされました。

連結決算を行うことで、グループ全体の経営実態や財政状況を把握できるようになります。投資家や債権者に不利益が発生しないように、この連結決算の制度があるのです。そのため、企業グループ内での取引は全て内部取引として消去する必要があります。

会計処理の統一

企業が連結財務諸表を作成する場合には、在外子会社等に対しても原則親会社と同じ会計基準(日本基準)を適用して、財務諸表を作成することが求められています。

ただし、在外子会社の財務諸表が国際財務報告基準(IFRS)又は米国会計基準(US GAAP)に準拠して作成している場合には、当面の間はそれらを連結決算手続きに利用することができるとされています。

なお当面の取り扱いで作成された在外子会社の財務諸表についても、定められた6項目については親会社と同一の基準を適用すべく会計処理を修正しなくてはなりません。

海外子会社との連結会計が難しい理由

海外子会社は資本上、経営上で関係がある立場といっても実務的に運営しているのは海外です。そのため経理も現地スタッフが担当することがあります。しかし、日本の本社で事業を把握しておかないと問題点が生じることもあるので注意が必要です。

日本の本社と現地スタッフとの連携

海外進出する上で、必ず考えておくべきなのが海外子会社の経理を日本からどのようにサポートするかという点です。現地の経理担当者は必ずしも日本語が堪能とは限りません。そのため日本本社からのきめ細かなフォローは難しい可能性があります。また、外国の会計事情に詳しくないため、現地の監査法人に委託して決算まで依頼してしまうことも多いのです。

その結果、問題が発覚しやすいのは親会社の決算時です。一般的に親会社の決算が3月であれば、それに合わせて子会社の決算書が送られてくると考えます。しかし、実務では送付されてくるはずの決算書が届いてこないことも珍しくありません。

決算書の不備

海外子会社から送られてくる決算書の内容にも問題が生じることがあります。送られてきた決算書をもとに有価証券報告書を作成する段階で、子会社の虚偽表示が発覚するようなケースもあります。

海外子会社での決算では、融通が利かない現地監査法人によって監査を受けている可能性も考えられます。監査と現地経理担当者の間に齟齬や理解不足が残ったまま、決算までもつれ込んでしまうこともあるでしょう。

国によっては会計監査の義務には違いがあります。たとえば、タイでは原則としてすべての法人に公認会計士の法定監査が義務付けられています。早い段階で現地の監査法人と監査スケジュールを協議しておくようにしましょう。

決算書の為替相場

決算時の会計処理
海外子会社の決算書を連結決算書に取り組む場合、為替の問題も絡んできます。基本的に海外子会社の決算書は外国通貨をベースに作成されています。しかし、日本での決算は円貨でおこなわれるため、どのように円貨換算するのかが問題になるのです。

決算時の会計処理

日本円に換算する場合の為替レートは、日々刻々と変化しています。海外子会社での取引すべてをそのときの為替レートで円貨換算すれば正確な換算ができますが、実務上あまりに煩雑で現実的ではありません。

そこで会計基準においてはさまざまな為替換算方法が認められています。基本的に貸借対照表では決算日の為替レートで換算します。換算によって生じた換算差額は、原則当期の損益として処理をします。

また純資産においては基本的にそれが発生した時のレートで換算します。純資産は資産から負債を控除したもので、これは返済する義務のない自己資本のことです。

損益計算書の換算方法

損益計算書とは、会社の利益を読み取れる書類です。企業の1年間の収益や費用、利益を集計したものであり、企業の経営成績を示すものといわれています。

損益計算書を換算する場合、原則は期中平均レート、例外的に決算日のレートで換算します。ただし、親会社との取引は親会社が使用するレートで換算することになります。

為替換算調整勘定とは

為替換算の場合、為替レートの変動に応じた損益が計上され、為替換算調整勘定で処理されます。為替換算調整勘定とは、連結財務諸表を作成する際に発生する換算差額を調整する勘定科目のことを指します。

この為替換算調整勘定は、海外子会社に投資したことによる累積としての為替影響額です。当然、為替が変動するためその日によって額は変化していきます。

為替換算調整勘定は、現時点では実現していない損益です。しかし、いずれ実現が予想される「潜在的な損益」なので、将来実現した時のためにその金額を把握しておく必要があるのです。

海外子会社を管理するために

海外子会社にトップ以外のマネージャーを置くことができない場合、管理業務が行き届かないことがあります。債権債務の管理やチェックがなされないなど財務部門の問題は大きなトラブルの火種になることも。

管理体制の強化

海外子会社でのトラブルや不正を排除するためには、小さなミスや不正行為も見逃さないという親会社のスタンスを示しておくことが大切です。具体的には行動規範やチェック体制などを全スタッフに周知しておきましょう。また定期的な研修もスタッフの質を保つために効果的な手法です。

現地でのチェック

さらに海外子会社の管理部門には定期的な報告のほか、問題が生じた時などにもこまめな報告ができるような体制が求められます。海外子会社の決算書も会社の財務状況を適切に示す書類のひとつです。海外子会社の決算書を丁寧にチェックし把握するとともに、できれば現地に赴くようにしましょう。現地で決算書類の内容や現物を確認することも本社の監視機能をあらわすために効果的です。

まとめ

企業グループ全体の状況を把握するためには、海外子会社も含めた連結決算書が必要になります。とくに上場会社では連結決算が当たり前で、グループ経営の意思決定のために欠かせない資料です。海外子会社は地理的な問題、語学の問題から本社の管理、コントロール機能がうまく働かないこともあります。

連結決算のためだけでなく、グループとしての経営を円滑におこなうためにも細やかな管理体制が必要となります。海外子会社の経営を現地のトップに依存しすぎると経営の監視監査の機能が働かなくなることもあるので、まずは体制づくりが課題となります。

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