シンガポールで会社を設立する際にはどのような手順で行うのか、また設立にはどれだけの費用がかかるのでしょう。シンガポールは、「東南アジア市場のハブ」として世界中の企業から拠点先に選ばれている多国籍国家でもあります。

地理的なメリットや、進出企業への優遇制度、法人設立に関する規制の少なさなど、世界でも有数のビジネスをしやすい国としても知られています。さまざまなメリットのあるシンガポール市場において、進出時の会社の設立方法についてまとめました。

シンガポールでの進出形態

シンガポールには、主に現地での会社設立、現地で支店設立、駐在員事務所を設立するなどの方法で進出が可能です。現地法人設立、支店設立、駐在員事務所設立の3つの進出形態は、それぞれ特長が異なります。

現地法人設立

シンガポールで現地法人を設立する場合、独立した法人格を持つ会社になるため、株式の公開会社と非公開会社のどちらかを選んで設立します。公開会社は50人以上の株主がいる会社で、公募で資金を調達できます。対して、非公開会社には株式譲渡は制限されますが株主の制限はありません。

日本から進出した企業は、その多くが非公開会社を選んでいます。シンガポールは他国に比べて現地法人化しやすく、設立した現地法人は法人税の優遇制度を受けられるメリットがあります。法人税率は日本の半分程度となる17%ほど、実質税率ベースでは10%程度まで抑えられるでしょう。

独立したシンガポール法人を設立した際には、万が一債務不履行に陥ったとしても日本法人に責任が生じることはありません。ただし、シンガポール法人から日本法人への配当金送金に課税が生じるなど、資金移動で不利な場合もあります。

支店設立

シンガポールに日本法人の支店を設立する場合は、独立した法人ではなく外国法人として存在することになります。支店でも、現地法人同様に営業や販売などの経済活動が行えます。支店の場合、資金移動の際には本店支店間の資金移動として比較的簡単に資金を動かせるのがメリットです。支店を閉鎖する際には、かかるコストが抑えられ比較的簡単に手続きが行えるという特徴もあります。

日本本社で利益が出ていてもシンガポール支店では利益が出ていないといった場合には、日本本社の利益を支店の損失と相殺できるため、法人税の節税にもつながるでしょう。ただし、支店の設立では口座の開設に時間がかかり、法人を設立するよりも手間がかかります。

支店の場合は、税制面での優遇措置が受けられないなどのデメリットもあります。日本法人を含めて決算や税務申告を行う必要もあり、必ず監査をしなければなりません。支店から現地法人へ移行する場合には、移行後の法人へ契約関係を移すためにかなりの時間や費用がかかります。

駐在員事務所設立

駐在員事務所は、現地で法人や支店を作るよりもコストをかからず簡単に設立できます。管理をする手順も簡単にできるため、現地法人を立てる前に駐在員事務所を設立する方法での進出方法もよいでしょう。

駐在員事務所を設立した場合、現地での法人や支店とは異なり販売や営業などの活動ができません。市場調査を目的として設立し、毎年更新しながら原則として3年で支店を設置するか撤退するかを決めるケースに活用できます。

会社設立(法人設立)までの流れ

シンガポールで法人を設立するには、その準備から法人登記、口座開設などのステップで準備を進める必要があります。

1.会社設立のための準備

シンガポール現地法人を設立するためには、事前に法人設立手続きに必要な準備をして申請しなければなりません。主な決定事項は以下の通りです。

  • 法人の会社名(商号)の予約
  • 会社の事業内容(政府の定める内容から2つまで選択)
  • 資本金
  • 株主(発起人)
  • 取締役(シンガポール居住者の現地取締役1名以上含む)
  • 秘書役(シンガポール会社法により設置が必須、シンガポール居住者)
  • 登記住所
  • 代行業者
  • 決算日

2.必要書類の準備

  • シンガポール法人の定款
  • 取締役宣誓書(Form45)

3.法人設立登記

必要書類が完成後、シンガポール会計企業規制庁(ACRA)にてオンライン申請を行います。法人設立は必要な書類が揃っていれば、比較的スムーズに手続きを終えることが可能です。

法人設立登記後には、「第一回取締役会」を開催して議事録を作成しなければなりません。法人銀行口座開設時に、決算月や法人銀行口座など決定した内容を記載した議事録の提出が必要になるかもしれないため、きちんと作成しておく必要があります。

4.銀行口座開設

法人設立後には、法人口座の開設を行います。法人口座の開設には厳しい規制があるため、手続きには注意しなければなりません。

手続きには、主に事業内容の説明や必要書類の提出、署名などが必要ですが、銀行によって必要な書類に違いがあるため事前に確認しておきましょう。口座完成後は、資本金を入金します。その後、増資を行う際にはさらに必要書類を作成してから取締役と株主の署名を受け取り、ACRAに増資の登記を行ってから実施します。

5.就労ビザ取得

法人設立や法人口座開設が完了したら、現地の法人で働く日本人スタッフの就労ビザを取得しなければなりません。

会社設立(法人設立)・登記費用

シンガポールで会社を設立するためには、さまざまな費用がかかります。主な費用には、法人設立費用、最低資本金、就労ビザ取得費用、取締役や秘書役費用などがあります。

法人設立費用

法人の設立には、会社名の申請時に社名確保手数料として、名称1つ当たり15SGD(シンガポールドル)が必要です。会社の設立申請を、会計企業規制庁(ACRA)のオンライン登録で行った場合、設立の許可が下りた際に手数料として300SGDを払わなければなりません。

最低資本金

シンガポールでの会社設立時に必要な最低資本金は1SGDです。ただし、会社設立後には就労ビザ取得などにかかるお金が必要になるため、実際には100,000SGD以上の資本金額を準備しておきましょう。

就労ビザ取得費用

就労ビザには、EP(エンプロイメント)パスとSパスの2種類のビザがあります。EPパスは専門職や管理職のスタッフを対象とするビザで、1人当たり申請手数料が70SGD、発行・更新手数料は150SGDです。

Sパスは一般職や技術職・作業職などのスタッフを対象とする就労ビザです。申請手数料が60SGD、発行・更新手数料が80SGDかかるため、日本からスタッフを現地に送るほど、高額の費用が必要になります。

取締役

法人設立には、現地に居住する取締役を最低1人登記しなければなりません。その名義貸取締役費用が1年で2,000SGD程度かかります。

シンガポールに移住しEPパスを取得した後は解約しますが、この手続きは、通常会計事務所や法律事務所などの専門家に依頼します。

会社秘書役

秘書役(カンパニーセクレタリー)は、法人設立後6か月以内に選任しなければなりません。名義貸取締役同様こちらも費用が年間2,000SGD程度かかり、手続きは専門家に依頼しますが、その費用は依頼する会社の規模などによっても異なります。

オフィス賃貸料

シンガポールに法人として設立する場合、法人の登記住所にシンガポール国内の住所が必要です。ところが、法人設立登記が完了していないと法人名義でオフィスを借りることができません。

実際には、コンサルティング会社や会計事務所等から登記住所を一時的に借りる、住所貸しサービスを利用するケースが一般的です。この場合は年間3,000SGD程度の費用がかかり、設立登記後に新しくオフィスを借ります。サービス・オフィスを使用する場合は、1人部屋で1,200SGD~の準備をしなければなりません。

従業員給与

従業員を現地で採用する場合、現地の相場では大学の新卒者で3,300~4,500SGD程度、日本語ができる人材の方が給与は高額になります。一般的な事務職の相場は2,500SGD程度を参考にできます。

日本人を現地で採用する場合は、スキルや経験により異なりますが3,000SGD程度~設定できるでしょう。シンガポールの平均賃金は、2022年以降も上昇すると予想されています。

まとめ

経済成長を続ける東南アジア市場内で、多くの海外企業が進出しているシンガポール。国民1人当たりのGDPは日本を超えており、「東南アジア市場のハブ」として経済的にも発展しています。

シンガポールでは、進出企業に対する優遇制度、教育水準の高さなど、さまざまな理由から「世界でもっともビジネスがしやすい」国としても人気の高い進出先です。優遇制度や進出サポートを活用し、リサーチを適切に行いながら進めることで、シンガポールへの進出を有利に進められるでしょう。

都内スタートアップの海外進出をサポートする「X-HUB TOKYO」では、海外展開に必要な情報の発信だけでなく、実例を踏まえたアドバイスやサポートを提供する機会も設けています。また、海外のエコシステムやグローバルオープンイノベーション、日本企業の事業創出をテーマとするイベントなども随時開催しています。最新のイベント情報をチェックして、海外展開に向けた一歩を踏み出してみましょう。

著者情報

hawaiiwater

X-HUB TOKYO
Webマガジン編集部

企業の海外進出に関する
様々な情報を発信しています。