異業種、異分野の知見を組みあわせるオープンイノベーションは世界的にも推進されている取り組みです。とくにオープンイノベーションが盛んと言われているシンガポールでの取り組み事例を紹介します。

オープンイノベーションの取り組み

1人の人間、1つの企業がイノベーションをおこなうというのは簡単ではありません。そこで1社だけでなく、さまざまな業種、分野が持つ技術を組みあわせて革新的なビジネスモデルを生み出す、オープンイノベーションの取り組みが世界中で始まっています。

たとえば大学で研究されているものの中には、閉鎖的な環境が原因で資本が足りずに開発に行き詰るものも少なくありません。今までの産学連携は小規模で他社との競合がない小さな規模にとどまっていました。文部科学省ではオープンイノベーションを加速させるため、産学官連携施策や地域科学技術の振興を促進する取り組みをスタートしています。

オープンイノベーションをおこなうことで、事業における足りない分野を保管できたり、社内リソースでは生まれないアイディアや発想が生まれたりすることもあります。一方で、日本はまだまだオープンイノベーションの取り組みが遅く、オープンイノベーションを生み出すためのエコシステムが必要との声も挙がっています。これからはエコシステムが第一の課題といえるでしょう。

世界的な企業がオープンイノベーションに乗り出した事例

日本ではまだあまり事例が多くないオープンイノベーションですが、海外では世界的企業がオープンイノベーションを活用しています。今回はその中でも有名な企業の事例を紹介します。

サムスン

サムスングループは韓国で最大手の財閥であり、電子製品メーカーのサムスン電子や薄型パネル、電池製造のサムスンSDIなどを抱えたグループ会社です。サムスン自体が巨大企業であり、世界的にも知られた大企業のサムスンですが、オープンイノベーションに対しても積極的な企業です。いいものがあればどんどん取りこむという戦略が、企業の文化、ブランドを構築しています。とくに有名なのが欧米で好調な「炭酸水が出る冷蔵庫」。これは大手ソーダメーカーのSodaStreamとコラボした製品です。自社で新しい技術を生み出したわけではなく、アイディアさえあれば、どこの国の企業でもこの製品を作ることはできたでしょう。海外では習慣的に炭酸水をよく飲みます。この文化を知っていれば日本でも同じ製品を作ることはできたかもしれません。違うアイディアを組みあわせることでまったく新しい付加価値を生み出すのがオープンイノベーションです。

オープンイノベーションは単純に新しい知識を受け入れるだけでは不十分です。戦略や組織改編が伴っていなければ十分な成果を得ることはできないでしょう。サムスンは開発体制や人事を機動的にすることで新しい組織体制を構築しています。またヘッドハンティングも積極的におこなっているため、他社の文化を取り入れやすい土壌が備わっているといえるでしょう。

アジアをけん引するシンガポールのオープンイノベーション

シンガポールは人口560万人という小さな都市国家です。また輸出依存度と輸入依存度が共に100%を超えた貿易国家でもあります。しかし、シンガポールはオープンイノベーションのシステムが整った国に成長しました。

世界のイノベーション動向に関しては世界知的所有権機関 (World Intellectual PropertyOrganization: WIPO)等がイノベーション関連機関やインフラ、市場の成熟度などを指標化してGlobal Innovation Index 2019 rankingsでランキングしています。

シンガポールはGlobal Innovation Index 2019 rankingsでは8位。これはアジアで最も高い順位です。一方で日本は15位という結果でした。
参考:Global Innovation Index 2019

シンガポール政府はイスラエルのような各種オープンイノベーション関連施策を実施し、さらにシンガポールとイスラエル間で学生・スタートアップ社員の交換派遣等の取り組みを実施しています。またシンガポール国立大学がアジアのQS World UniversityRankingで1位のハイレベルな大学であることも、この結果に貢献しているでしょう。

シンガポールのスマートネーション構想とは

シンガポールは独立してから急速に進む産業構造の転換に対応するように発展してきました。技術が発展するとともに人材のスキルアップもスピーディーさを求められます。小さな国でありながらモノづくり国家となったシンガポールの基盤はこのような変遷も理由です。

スマートネーションはスマートシティを国家レベルに拡大した構想。交通、住環境、ビジネスの生産性、健康と高齢化、公共サービスという5つの側面にデジタル技術を活用することで、国全体をスマートに変革する試みです

スマートネーションを実現するには官民パートナーシップやスタートアップ企業の成長加速、そして人材育成が欠かせません。そこで官民パートナーシップのためには、政府主導でマスタープランを作成して民間企業と連携して実証実験をおこなっています。

またスタートアップ企業の成長促進に対しても公的研究を急スピードで推し進めるとともに、新しいビジネスモデルやソリューションを模索するためのリビングラボを整備しました。またエコシステムとしてスタートアップと大手企業、コーポレート・ベンチャーキャピタル(CVC)との協創を支える仕組みを構築することで、オープンイノベーションを進めています。

シンガポールのオープンイノベーションは資本の提供にとどまりません。規制の枠やルールにとらわれることなく実証実験をおこなえる、レギュラトリーサンドボックスの環境は多くの研究者にとって魅力的です。

シンガポールでオープンイノベーションが進む理由

シンガポールでオープンイノベーションが進む理由
アジアにおいて、経済大国は他にもあります。シンガポールが突出してオープンイノベーション環境の整備が進んでいる理由はいくつかあります。シンガポールでは高い水準の教育や治安の良さ、税制面のメリットに魅力を感じた世界のトップ企業が集結する環境があります。家族を連れて移住する人も多く、さまざまな人種が集まりやすい国といえるでしょう。

シンガポールの人材は幅ひろく、欧米人やベジタリアン、ムスリムやカトリック、さまざまな人種や文化の人材が混じり合って構成されています。そのため、大手企業もシンガポールでテストマーケティングをおこなっています。また人材として現地で採用することもあるでしょう。

事実インドでは8,000以上の企業がシンガポールで登記しているともいわれています。シンガポールは税制面やスタートアップ支援だけにはとどまらない魅力があります。アジアの新興市場に対する適応力が高いので、今後ASEAN進出を目指す企業にとってもイノベーションハブとしてシンガポールは魅力的なのです。

まとめ

シンガポールのオープンイノベーションは官民パートナーシップを土台として育成した優秀な人材を配置、自由度が高い環境においてチャレンジや実証実験をおこなうというもの。このエコシステムを進めていくことで新しいビジネスが生まれる良い循環の創出を生み出します。

海外進出先としてもシンガポールはこれからどんどん魅力を増していくと考えられるでしょう。日本においても日本の海運大手日本郵船株式会社の出資で海運向けソリューション会社Symphony Creative Solutionsが設立されました。海運、物流における次世代ソリューションを共同開発することで、より利便性が高い物流サービスを提供することを目指しています。シンガポールは今後イノベーションを起こす拠点として世界中から注目を集めています。

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hawaiiwater

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