都内スタートアップの海外進出を支援するX-HUB TOKYOは6月22日、キックオフイベントを開催しました。

X-HUB TOKYOは都内のスタートアップ企業のグローバルな活躍を支援し、海外企業との交流を通じて、都内経済の活性化を目指すプログラムです。

2021年度事業では、ニューノーマル時代でのオーブンイノベーションの創出を主軸に、新しいグローバルマーケットへの進出機会を提供します。本年度から開始した「STEP-UP PROGRAM」をはじめ、海外展開を目指す都内のスタートアップに向け「OUTBOUND PROGRAM」、海外スタートアップの東京進出をサポートする「INBOUND PROGRAM」のほか、海外の最新トレンドや起業家のリアルな体験を伝えるイベントを定期的に開催します。

今回のイベントでは、Plug and Play Japan株式会社代表取締役社長のヴィンセント・フィリップ氏とテラドローン株式会社代表取締役社長兼テラモーターズ株式会社代表取締役会長の徳重徹氏に、スタートアップ企業の海外進出の課題や戦略などについて、実例を交えてご講演いただきました。

海外展開を目指すスタートアップ企業だけでなく、スタートアップのサポート機関であるVCや大企業の方々にも有益な最新情報を共有しました。


ニューノーマル時代でのオープンイノベーションにおける課題と挑戦

Plug and Play Japan株式会社 代表取締役社長 ヴィンセント・フィリップ氏

はじめに、Plug and Play Japan株式会社代表取締役社長を務めるヴィンセント・フィリップ氏に、オープンイノベーションの重要性について伺います。
世界が変化するスピードが日に日に速くなっている昨今、オープンイノベーションは企業の生存戦略において重要な要素となっています。中でも地域特性が強くなりつつあるオープンイノベーションへのアクセスがコロナ禍で容易になりました。これは特筆すべき事項です。
イノベーションとは、「新しいアイデア」「ユーザーの獲得」「価値創造」の3要素からなるプロセスを指しています。イノベーションの難しさは、イノベーターのジレンマにもあるように、企業が成熟した段階で、新しい事業の開始に動き出す必要がある点にあります。イノベーションには「刺激」や「勢い」といった要素が必要不可欠であり、早い段階でアクションを行う必要があります。
日本のスタートアップ企業には、どのような課題があると考えられますか?
ニューノーマル時代における起業家および日本のスタートアップ企業の課題として、主に5点挙げられます。1点目、国の規模が大きいことから、イノベーションのニーズが他国に比べ少ないことが考えられます。2点目、起業家教育の機会が少ないことに加え、失敗を許さない文化が根付いています。3点目、コミュニケーションにおける柔軟性の欠如も一つの特徴です。4点目、大企業をはじめ、パートナーとなりうる企業からのスタートアップ企業への信頼が希薄です。最後に5点目、海外アクセラプログラムでの採択実績が少ないことも挙げられます。
過去の不況時にはUberやAirbnbといったスター企業が輩出されているように、コロナ禍においても2021年度は見込投資額が増加していることに加え、日本国内でもAI(人工知能)やSaaS(サービスとしてのソフトウェア)をはじめとした領域へのベンチャーキャピタルファンド組成が進んでおり、新たなイノベーションの土台が整いつつあるといえます。
最後に、海外展開を行う際に注意すべきことについてお聞かせください。
スタートアップ企業の海外展開には、下記の要素について検討すべきです。まず、スタートアップ企業が海外展開で成功するためには、マーケットの知識、プロダクト等のローカル化、人材の確保・育成、資金調達、パートナーの確保等のさまざまな要因が重要となります。一般に、海外展開を早期から想定しているスタートアップ企業は海外で起業している場合が多いですが、Mid/Laterステージでの海外マーケットエントリーを図るスタートアップ企業も増えています。その理由として、Early/Seedステージではマーケットフィットがうまくいかないことが挙げられます。

グローバルメガベンチャーを目指すために必要な4つのポイント

テラドローン(株)代表取締役社長兼テラモーターズ(株)代表取締役会長 徳重 徹氏

次に、テラドローン株式会社代表取締役社長兼テラモーターズ株式会社代表取締役会長を務める徳重徹氏に、同社のコロナ禍における取り組みについて伺います。
コロナ禍において、既存の海外展開先の維持・拡大に加え、新規事業の立ち上げを実施しました。まず、インドを中心にEV(電気自動車)事業を行っているが、コロナ禍のロックダウンで2か月間売上ゼロの期間がありました。しかし、その6カ月後に歴代最高の売上を達成しました。また、ドローン事業の大型資金調達がコロナで頓挫したものの銀行借り入れでしのぎ、最後には15億円の資金調達を実現しました。最後に、コロナ禍で海外出張ができなくなったマイナス面がありましたが、結果的には、そこから別の事業機会を得て、国内で建築DX事業を新たに立ち上げ、施工管理ソフトではリリース後、たった1ヶ月で国内No1になりました。
海外で新規事業を立ち上げるためのポイントについてお聞かせください。
海外における新規事業立ち上げにおいて重要な点は4つあります。当たりの発掘、人材、組織カルチャー、バッファー経営です。1点目は、当たりの発見(Product Market Fit)です。価格や法規、テイストや顧客ニーズ、コンプラの違い、予測不能な規則変更など、さまざまな要因によって海外事業は左右されるため、国内よりもはるかに難易度が高いです。2点目は、人材です。海外事業では、ローカルのキーパーソンが極めて重要です。テラでは、海外の競合から引き抜くことが多いです。合わせて、日本人の海外経営人材も重要です。テラでは二段階上のレベルの大幅な権限移譲や大きな挫折を経験させることで人材を育成しています。本物の事業経営者は修羅場経験がないと創れません。3点目は、組織カルチャーです。当たりが見つかり事業が1回転したら、今度は企業がスケールするタイミングでコアバリュー(スピード感や当事者意識等)の徹底が重要です。テラでは、日本、海外でほぼ同じ価値観で統一しています。海外では、この点も非常に難易度高いです。4点目は、バッファー経営です。海外では、想定外のことが日本国内での起業以上に頻繁に起こるので、リスクをとる一方で、逆説的ですが、慎重な保守的な経営が重要です。テラはアグレッシブな面のみ強調されますが、実は非常に現実的な経営しています。危機は何度もありましたが(柳井正氏の1勝9敗ではないですが)、会社を倒産させてはいけません。

当イベントでは、日本のスタートアップ企業が海外展開を実現させるための戦略についてお伝えしました。引き続きX-HUB TOKYOでは様々なイベントを通じて、海外展開を目指すスタートアップにとって有益な情報のほか、オープンイノベーションの最新トレンドなどを発信していきます。