都内スタートアップの海外進出を支援するX-HUB TOKYOは8月13日、第2回海外展開セミナー「シンガポールからアジアへの扉を開く~海外ビジネス成功の秘訣~」を開催しました。

今回のイベントにはシンガポール共和国大使館、商務部、参事官兼シンガポール企業庁、北東アジア・オセアニアグループの地域代表を務めるタン・ファビアン氏、AnyMind Group株式会社の十河宏輔代表取締役CEO、そしてジャフコグループ株式会社の渋澤祥行常務取締役にご登壇いただき、アジアのハブ拠点であるシンガポールに焦点を当てながら、同市場の特徴やビジネスの魅力をお届けしました。

また、ニューノーマル時代を控えた最新トレンドに加え、シンガポール進出に必要な事業戦略の考え方についても共有しました。


シンガポールのエコシステムの魅力と特徴

シンガポール共和国大使館 、商務部、参事官兼
シンガポール企業庁、北東アジア・オセアニアグループ地域代表
タン・ファビアン氏

まずはじめに、シンガポール企業の海外展開や中小企業支援に従事されているタン・ファビアン氏に、Enterprise Singapore(シンガポール企業庁)の活動やシンガポール市場の魅力についてお伺いします。
Enterprise Singapore(シンガポール企業庁、以下ESG)はシンガポール企業の海外展開を支援する「国際企業庁(IE)」と、中小企業を支援する「規格・生産性・革新庁(SPRING)」が統合され2018年4月に設立された機関です。
シンガポールは人口が約570万人、面積は東京23区と同規模の小さな国です。しかしビジネスシーンにおいては、アジアの中心地として国内外から高く評価されています。例えば、各国のビジネスのしやすさをランク付けした世界銀行の発表によると、2018年には世界で最もビジネスがしやすい国の一つしてシンガポールがノミネートされました。
シンガポールではスタートアップも盛り上がりをみせています。エコシステムの特徴やトレンドなどを教えてください。
シンガポールのスタートアップは常に成長を続けており、例えばテクノロジー関連のスタートアップだけでも、その数は3800社にのぼります。また、ユニコーン企業は9社ほどあり、スタートアップのサポート機関であるベンチャーキャピタルも220社ほどが活動しています。
国内では多様なジャンルのスタートアップが活躍していますが、そのなかでも産業ロボティクスやAI(人工知能)といったテクノロジー分野は特に注目されています。シンガポールは人口や労働力が限られているため、業務の効率化はとても重要なポイントです。また、政府は食料自給率を2030年までに30%に引き上げる「30 by 30」という目標を掲げており、フードテックやアグリテックの技術を有する企業にも多くの関心が集まっています。
シンガポールでは少しづつではありますが、パンデミックの終焉に向け、ビジネスの準備や動きが進んでいるように感じています。同国にはアジア展開を目指すうえで鍵となる様々なネットワークが整っています。ぜひ日本企業の皆さんも一緒にシンガポールからアジア、そして世界を目指していきましょう。 

シンガポールから始まる海外ビジネス展開の秘訣

AnyMind Group株式会社 代表取締役CEO 十河 宏輔氏

続いて、シンガポールを拠点に事業を手がけるAnyMind Group株式会社の十河宏輔代表取締役CEOに、これまでの海外展開についてお伺いします。
私たちAnyMind Groupは、オンラインでビジネスをサポートする事業を幅広く展開しています。生産やECサイト構築、マーケティングや物流までを一気通貫でサポートできるソフトウェアを開発しており、ベトナムやインド、タイやマレーシアなどアジア17拠点で事業を行っています。これまでに調達した資金額は68億円を超え、M&Aを通じて事業の多角化を進めてきました。
弊社は2016年にシンガポールで創業しましたが、当時からアジアのマーケットには非常に大きな可能性を感じていました。人口の拡大に加えて、多くの産業が右肩上がりに成長を続けている光景を目の当たりにし、「成長する地域で成長する業界の事業を行えば、必ずビジネスは上手くいくだろう」と確信していました。
アジアでビジネスを行ううえで大切にしているポイントを教えてください。
大きく分けて2つのポイントがあるかと思います。まず一点目は、強固な組織を築き上げるためには、海外拠点のマネージャー採用と育成が欠かせません。私たちが積極的にM&Aを進めているのは「優秀な社長を採用できるから」という理由もあります。各国のローカルチームが事業を推進してくれるからこそ、会社は安定して成長していきます。
ですがローカル組織のマネジメントは決して一筋縄ではいきません。国や地域によって文化や言語が異なるため、私たちも組織を何度も作り直してきました。現在はそれぞれの地域の経営者らと擦り合わせを重ね、お互いの価値観を知り、共に事業で目指したいイメージを共有するようにしています。
また、二点目のポイントとしては、常に海外やグローバルを見据えて戦略を練りながら事業を展開することが大切です。プロダクトやビジネスモデルは世界基準に合わせつつ、セールスやマーケティングはローカライズすることで、それぞれの国や地域で結果を残せるようになるでしょう。
私たちはこれまでアジアを舞台に事業を手がけてきましたが、長期的な目標としては、世界中で通用するビジネスモデルを創り上げ、世界をリードするようなテクノロジーカンパニーになりたいと考えています。今後は東南アジアを越えてアフリカや南米進出も目指していますので、ぜひ皆さんも私たちと一緒に、アジアからビジネスを盛り上げていきましょう。

アジア進出を目指すスタートアップが知るべき事業戦略の描き方

ジャフコ グループ株式会社 常務取締役 渋澤 祥行氏

最後に、ジャフコグループ株式会社常務取締役の渋澤祥行氏に、これまでのアジアでのご経験についてお伺いします。
ジャフコグループは日本と米国、そしてアジアでITサービスや医療など様々な業界の企業に投資を行っています。私自身は30年近く一貫してベンチャーキャピタル投資に従事しており、2012年にはシンガポールに活動の拠点を移しました。ここ10年間ほどは海外投資の全般を手がけており、シンガポールやインド、インドネシアやベトナムといったアジア諸国をメインエリアとして、積極的にVC投資活動を展開しています。
これまでに数多くの起業家にお会いしてきたなかで感じているのは、結果を残していらっしゃる方の共通項として、皆さん最初は「異端」だという点です。周囲とは異なる行動を取り「異端」と言われても、強い目的意識や想いをもって事業を進めている方の姿を見ていると、私も心が強く動かされることがありました。そういった方々が最終的には社会的な認知を受け、社会を変えるようなサービスを創造しているように思います。
これからシンガポール、そしてアジア進出を目指す日本の企業に向けて、メッセージをお願いいたします。
東南アジアはそれぞれの国ごとに市場の成熟度や特性が異なりますので、一括りにするのは難しい側面があります。とは言っても日本はアジアの一員ですし、アジアには莫大な機会があります。アジアで挑戦しようと一度決めたら、まずはなぜその地域を選んだのか、なぜ自分たちが取り組もうとしているのかを深く掘り下げてみてください。
ベンチャー経営は変化の連続です。アジアで成功している経営者の方々を見ていると、皆さん「変わり続けるたくましさ」も兼ね備えています。一度目指すべき方向性を決めたら、スピード感を忘れずに事業を進めていきましょう。また、事業のコア部分を見極め、辛く大変な時でもぶれない軸を持つことも重要です。
アジアでビジネスを進める際には、一度戦略をデザインしたら、とにかく動いてみる姿勢も大切です。その際には投資家だけでなく、色々な人を巻き込んで進むように意識してみてください。アジアで生きる一員として周囲と「共生する」マインドセットを持ちながら、ぜひ思い切って一歩を踏み出してみましょう。

当イベントではシンガポールのスタートアップエコシステムの特徴や魅力、そして海外ビジネスの成功の秘訣についてお伝えしました。引き続きX-HUB TOKYOでは様々なイベントを通じて、海外展開を目指すスタートアップにとって有益な情報のほか、オープンイノベーションの最新トレンドなどを発信していきます。