都内スタートアップの海外進出を支援するX-HUB TOKYOは6月22日、2022年度 X-HUB TOKYO キックオフイベント「スタートアップのグローバルトレンドとコロナ禍における海外展開成功の秘訣」を開催しました。

本イベントでは、事業全体の概要や、東京のスタートアップエコシステム(以下、SUエコシステム)の紹介に加えて、グローバルに活躍するスタートアップのトレンドやその海外展開手法、そしてコロナ禍における海外展開成功の秘訣など、都内スタートアップが海外展開を目指す際に有益な情報をお伝えしました。

イベントの前半では、経団連副会長としてSUエコシステムの創出にご尽力されている、株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)の代表取締役会長・南場智子氏が、東京のSUエコシステムの現状と今後のあるべき姿、そしてイノベーションが生まれる環境を作るために必要なポイントを共有しました。

中盤のパネルディスカッションには、パネリストにCIC Japan合同会社 会長 兼 A.T.カーニー株式会社 会長の梅澤高明氏、株式会社アストロスケールホールディングス 最高財務責任者(CFO)の松山宜弘氏が登壇。ファシリテーターのデロイトトーマツ ベンチャーサポート株式会社代表取締役社長の斎藤祐馬氏と共に、日本のスタートアップが海外進出する際に留意したいポイントなどについて、議論を進めました。

そして後半には、コミュニケーションロボットの開発や販売を手がけるユカイ工学株式会社代表の青木俊介氏が登壇し、海外展開成功の秘訣を紹介しました。


基調講演〜東京のSUエコシステムの現状と今後の展望〜

株式会社ディー・エヌ・エー
代表取締役会長/経団連副会長 南場 智子氏

本日は基調講演として、株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)代表取締役会長、そして経団連で副会長を務める南場智子氏をお招きしています。まずはじめに、経団連が2022年3月に発表した「スタートアップ躍進ビジョン」について、その内容を少しご紹介いただけますか?
「スタートアップ躍進ビジョン」は、大企業を主語としたスタートアップとの結節点のあるべき姿を主眼に置いたものではなく、日本でスタートアップの裾野が広がり、世界的に活躍するスタートアップを多く輩出するためのエコシステムの実現を目指して作成された提言です。
この提言では、今から5年後までにスタートアップの裾野や起業の数を10倍に、そして成功するスタートアップのレベルも10倍にする方針を打ち出しています。日本、とりわけ東京では、スタートアップの起業数や総投資額は増加傾向にあります。ですがその一方で、世界との差はどんどん広がっているのが実情です。
こうした現状を打破するため、今回の提言では「スタートアップ振興政策の司令塔(スタートアップ庁など)の創設」「人材の流動化」「起業を楽しみ、身近に感じられる社会へ」など、7つの主要な変化を起こすために講ずべき施策として、38項目を盛り込みました。これらの具体的な施策を進めることで、5年後には時価総額1兆円を超えるスタートアップが日本から誕生し、東京が世界有数のスタートアップの集積地になることを願っています。
今お伺いしたビジョンの実現、そして今後日本がスタートアップをサポートする体制を整えるために必要なことを教えてください。
まず、体制や制度としては、事業化から黒字転換ステージに進む段階でスタートアップが直面する障壁を乗り越えられるよう、資金面などの十分なサポートが必要です。その一方で、現状のSUエコシステムやそれらをサポートする制度に不足がある場合でも、おおらかに受け止め、「ポジティブにフィードバックすること」も大切だと思います。
ほかには、起業家の自由なイノベーションを爆発させるような土壌づくり、そして世界で活躍している起業家、そして投資家やVCの生の声を聞き「グローバルスタンダード」を意識することで、ガラパゴス化を防ぐのも重要です。こうした土壌が出来上がっていくと、日本は世界から一流の人材とスタートアップが集う場所になっていくことでしょう。
世界各地で特徴的なSUエコシステムが数多く誕生しているなかでも、東京のポテンシャルは決して小さくはないはずです。特徴的な文化やエンターテインメント、そして治安の良さは、世界に誇れる要素と言えます。
スタートアップの成長は、経済の発展、イノベーションの振興、そして社会課題の解決につながっていきます。未来を担う勢いの良い次世代のリーダーがすくすくと育つ土壌をつくれるよう、一緒にしっかりと頑張っていきましょう!

パネルディスカッション『グローバルに活躍するSUの最新トレンドとその海外展開手法』

デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社斎藤 祐馬代表取締役社長
株式会社アストロスケールホールディングス松山宜弘最高財務責任者(CFO)
CIC Japan合同会社 会長/A.T.カーニー株式会社会長 梅澤 高明氏
(左上、右上、中央下の順番)

次に、パネルディスカッション『グローバルに活躍するSUの最新トレンドとその海外展開手法』にうつります。まずは皆さんの自己紹介と、事業内容やサービスのご紹介をお願いいたします。
梅澤氏:CIC Japan合同会社 会長 兼 A.T.カーニー株式会社会長の梅澤です。私たちCIC(ケンブリッジ・イノベーション・センター)は、1999年米国での創立以降、20年以上にわたって、イノベーションを起こすイノベーターの方々をサポートしてきました。そしてCIC Japan合同会社は、東京の虎ノ門で日本最大級のスタートアップ向けシェアオフィスを運営しており、世界中のイノベーターや投資家、そして企業が集うイノベーション・コミュニティを創出しています。また、2020年10月の開業以来は、240回を超えるスタートアップやイノベーションに関するイベントを実施してきました。今日はよろしくお願いします。

松山:株式会社アストロスケールホールディングス最高財務責任者(CFO)の松山と申します。私たちは、宇宙ごみ(デブリ)の除去等を含む軌道上サービスを開発しており、2013年の創業以来、軌道上で増加し続けるデブリの低減・除去策に関する技術開発を進めてきました。また、複数の民間企業や団体、行政機関と協働し、宇宙政策の策定などにも携わっています。よろしくお願いいたします。
皆さんはそれぞれ海外でも幅広く事業を展開されていらっしゃいますが、その際に重視されていること、留意されていることなどがあればお聞かせください。
梅澤:海外で事業を展開する際には、日本の事業やサービス、そして日本の考え方をそのまま海外にもっていくだけでは、成功は難しいでしょう。ですので、日本の社内にいながらもグローバルな視点を持つために、経営陣やチームに海外の方を積極的に登用するなど、ダイバーシティーに富んだ環境をつくり、マインドセットを変えていくことが重要だと感じています。

松山:海外で子会社や事業所を設立したり、拠点を構えたりという際には、「現地のことは現地に任せる」という気概と、それを可能にする制度や仕組みを設けることが大切です。海外の市場やお客さんのことを深く理解するためにも、現地のメンバーと膝を突き合わせて議論することをおすすめします。もちろん、現地チームに裁量を与えるのは、勇気のいることです。ですが「自分たちは信頼されている」という気持ちを現地のメンバーが持てるようになると、ビジネスも前進していくのではないでしょうか。
これから日本のスタートアップ、そしてその支援者に求められていることは何か。ご見解をお聞かせください。
松山:日本は今後もっと、スタートアップをサポートする制度や体制をよりよいものに変えていけると思います。特に、ディープテックをはじめ、研究開発に長い時間や大きな投資がかかる分野に関しては、資金面での支援が欠かせません。そのためには、政府からの投資やスタートアップが資金調達をしやすい法制度が整えられることを望んでいます。

梅澤:日本のスタートアップが活躍し、そして今度は世界の魅力的なスタートアップを惹きつけるには、「この分野なら、日本で起業したい」と思わせられるような、特定の分野の強みをもつが大切だと思います。そのためには、アクセス性に優れた利便性の高いエリアに、産業クラスターや巨大なシェアラボをつくり、さまざまな人が集える環境を整えたり、大企業の社員がスタートアップで週に1日だけ働けたりと、より自由に人材の交流ができる制度や環境を設けることも、一つの選択肢になるのかなと思います。
今後海外展開を目指す日本のスタートアップに、メッセージをお願いいたします。
松山:これまでの経験を振り返ると、私も特にはじめの頃は、海外のビジネス環境でどのようにふるまえばよいのか、難しさを覚えることもありました。ですが冷静に意見を伝えると、相手から適切に評価してもらえる場合も決して少なくありません。自分のできる最大限のことを行い、臆せず進むことができれば、明るい未来が待っているはずです。

梅澤:「Think Global」、そして「粘り強く戦い続けること」を意識して、ぜひ長く戦えるチームをつくりましょう。私たちもSUエコシステムの醸成やスタートアップの育成に本気で向き合っていますし、随時色々なイベントを開催していますので、ぜひ海外展開の一つのきっかけにしていただけたらと思います。

先輩起業家講演『コロナ禍における海外展開成功の秘訣』

ユカイ工学株式会社
代表 青木俊介氏

それでは最後に、先輩起業家による講演『コロナ禍における海外展開成功の秘訣』にうつります。本日は、ユカイ工学株式会社の青木俊介代表をお招きしています。
ユカイ工学株式会社の青木と申します。私たちは「ロボティクスで、世界をユカイに。」を掲げ、様々な製品を開発・販売するロボティクスベンチャーです。自社製品の製造や販売ノウハウを元に、お客様のご要望に合わせて、ハードウェアの設計や製造、ソフトウェアやアプリ開発などを手がけています。家族間のコミュニケーションを助けるロボットや、ヘルスケアデバイスと連携できるロボットなど、それぞれに特徴を持ったロボットを開発しています。
これまでの海外進出を振り返って、海外での認知度をどのように高めていかれたのか、そして今後海外展開を目指す日本のスタートアップに向けてアドバイスなどがあれば、お聞かせください。
私たちの場合は、海外の展示会に積極的に出展したことが、現地のメディア露出や製品の認知度の向上につながったと感じています。展開会のなかで最も力を入れていたのは、米国ラスベガスで開催される電子機器の見本市「CES」でした。国内外の主要なメディアからの注目度が高いということもあり、一定の効果を得ることができたように思います。また、プロモーション時に活用する英文のプレスリリースは、高いスキルをもった専門の人材に依頼したことも、効果的なプロモーションにつながった理由の一つかもしれません。

くわえて、海外現地のアクセラレータープログラムへの参加を通じて、SUエコシステムやスタートアップと接点をもてたことも、大きな成果でした。こうした現地での出会いが、その後の資金調達につながることもありますので、ぜひご興味があれば挑戦していただけたらと思います。

当イベントでは、東京のスタートアップの今後の展望や、海外展開の際に重要なポイントや成功の秘訣などをお伝えしました。引き続きX-HUB TOKYOでは様々なイベントを通じて、海外展開を目指すスタートアップにとって有益な情報のほか、オープンイノベーションの最新トレンドなどを発信していきます。